人間に似せてつくられたロボットは「アンドロイド」と呼ばれています。ロボット工学者の石黒浩さんが自分そっくりのアンドロイドをつくり、世界を驚かせたのは、もう10年以上前のことでした。
人間との見分けがつかないほどのそのアンドロイドは、石黒さんを世界的なロボット工学者として知らしめることになりました。
取材時、研究室で見せてもらったアンドロイドは、見れば見るほど、そのリアルさに驚かされました。骨格に沿って走る肌のライン、皮膚の質感や色、目の輝き……。動かしてもらうと、リアルさはさらに増しました。
しかし、こんな驚くべき人型ロボットを世に送り出した人物は、実は子どものころから科学者になりたいわけではなかったのです。
「科学者をめざそうと思ったのは、大学生のときです。よくこういう取材だと、『子どものころからロボットをつくりたいという夢を持っていました』などというセリフを期待されますが、それはちがうと僕は思っています。
子どもが拙い知識でつくりたいと言うのと、ちゃんと勉強してからつくりたいというのは、まったく次元が違う話です。そもそも夢がそんなに簡単にかなえられるほど甘い世界ではないのです」
本当は画家になりたかったのだそうです。絵を描くのは、楽しかった。しかも、石黒さんはロジカルに絵を描くタイプでした。
「なぜここに線を引かないといけないのか。それを常に問う。結果、たどり着いたのは、自分は何を表現していきたいのか、ということでした。もっと言えば、自分は一体何なのかであり、人間とは何かという興味です」
ただ、絵で生きていくことはなかなか決断できず、「保険」の意味で進んだのが、大学でした。当時、関心のあった計算機科学の学科があった日本で2つしかない大学のうちのひとつ(山梨大学工学部計算機科学科)に入学。
ただ、3年生まではずっと絵を描いていて、やがて自分には天分がないことに気づいて、絵には見切りをつけるのです。
「世の中で不思議なことは主に2つだと思っています。1つは、物事の起源は何か。電子や分子の世界ですね。そしてもう1つが、人間とは何かです。こちらは人文系や認知科学の分野です。僕が興味を持ったのは、後者でした。そしてこれが工学的にも挑むことができると教えてくれたのは、保険の意味で進んだ大学でした」
ロボットをつくることで、人間を知ることができるのではないか。石黒さんは、そんな動機でロボット研究を始めるのです。
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