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2023.07.17 17:00

「人間」を知れば、人は失望しない──ロボット工学者・石黒浩の研究哲学

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漠然と「人間とは何か」を知ろうとしても難しいのです。そして、大きな目標だからこそ、人の興味は続きます。
 
目標に向かうことに自分の存在意義はあるのに、簡単な目標で1年後に達成されたら、生きていく意義がなくなってしまう。だから、高い目標が大切なのです
 
難しい研究の過程でわかってきたことは、人間とはいかに複雑なものか、ということでした。それによってゴールは遠のいても、逆に到達の難しさを知ることが、科学者や技術者でいられるモチベーションになると語ります。生きていく原動力にもなるのだと。
 
逆に言えば、表面的にしか問題に触っていなければ、何も見えてこないということです。ときどき人間に失望している人がいますね。僕は言いたいんですよ。もっと人を勉強してみてくださいと。人間がいかによくできているか。複雑で奥深いか。それが少しでもわかってくれば、人は人間に失望したりはしないですよ
 
では、石黒さんは、どうしていまのようなアンドロイド開発に至ることができたのか、こう語っていました。
 
僕の場合は、自分の生きる存在価値を見つけるために研究をしようと考えていたことが大きかったと思う。生活するための職業としての研究課題と、お金を稼ぐ工学的研究成果と、人間とは何かという、人が生きていくうえでの基本問題を、区別せずに考えてきたということです
 
石黒さんはまた、四六時中、研究について考え、あらゆることが学びになると語っていました。生活のモチベーションと研究のモチベーションが同じ。「こういうときに、人はこう考えるのか」ということの連続が面白いと。
 
何がいい仕事で、何が悪い仕事なのか。それは実はわかりません。人を幸せにできるか、褒めてもらえるか、というのも主観的な話でしかない。唯一、工学にとって正当化される方向は、いままでにないことをやることだと僕は思う
 
それは「人間とは何か」に一歩でも近づくことだからです。
 
人類は生き延びて何をしようとしているのか。結局、僕はこういうことだと思っているんです。人間とは何かということを、知ろうとしているのだと
 
最先端の科学者の言葉は、まるで哲学者のようでした。一見、正反対に見えるものが、グルッと回って実は同じだったりすることがある。本質を追いかけることの大切さを、強烈に教えていただいたインタビューでした。

文=露原直人

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