宇宙

2023.10.08 11:30

「ビッグバン直後」の宇宙はどれくらい小さかったか

では、いったいどのくらいさかのぼれるのだろう? 特異点までさかのぼることは可能なのか?

宇宙がつねに物質と放射線で満たされていれば、最大濃度かつ最高温度でかぎりなく小さかった時点、時間でいうなら“ゼロ”に相当し、物理法則が崩壊する時点までさかのぼることができる。方程式をどこまで適用できるか、この理論によってどこまで説明できるかに限界はなく、どこまでもさかのぼれるはずだ。

しかし、宇宙がそのような高エネルギー状態の特異点で生まれたとすれば、現在の宇宙はわたしたちが観測しているのとは正反対の状態でなければおかしい。そうではないことを示す一例として、ビッグバンの残光における温度のゆらぎが挙げられる。現在ではマイクロ波背景放射として知られるこのエネルギーは、プランクスケールで測定可能な1019 GeV(億電子ボルト)と同等の密度になるはずだ。ところが、実際の温度のゆらぎはその三万分の一程度でずっと小さいことから、宇宙が誕生したときの温度はそれほど高温ではなかったのがわかる。

初期の宇宙のインフレーション期における大、中、小規模のゆらぎによって、ビッグバンの残光のどこが高温(高密度)でどこが低温(低密度)だったかがわかる。ゆらぎは宇宙の膨張にともなって増幅するため、小規模のゆらぎと大規模のゆらぎにはわずかではあるが差がある。NASA / WMAP SCIENCE TEAM

初期の宇宙のインフレーション期における大、中、小規模のゆらぎによって、ビッグバンの残光のどこが高温(高密度)でどこが低温(低密度)だったかがわかる。ゆらぎは宇宙の膨張にともなって増幅するため、小規模のゆらぎと大規模のゆらぎにはわずかではあるが差がある。NASA / WMAP SCIENCE TEAM


実際、マイクロ波背景放射の温度のゆらぎと同じ放射線の偏光を詳細に測定すると、ビッグバンの“もっとも熱い場所”におけるエネルギーはせいぜい1015 GeV程度だったことがわかる。どこまでさかのぼり、宇宙が物質と放射線で満たされていたと推測できるかには限界があり、それ以前に高温のビッグバンを引き起こす段階があったことはまちがいない。

この段階については、マイクロ波背景放射の詳細な測定が可能になる前の1980年代に提唱されており、宇宙のインフレーション(宇宙の急激な膨張)理論として知られている。インフレーション理論では、宇宙は次のように説明される。

・かつては大量のエネルギーによって支配されていた

・そのエネルギーはダークエネルギーに似ているが、規模はさらに大きかった

・そのため、宇宙は急激に膨張した

・その結果、インフレーションの場をのぞいて宇宙は低温、低密度になった

・やがて、無限とも思える長期間に及ぶ膨張が終わり、インフレーションの場は消滅した

・そして、ほぼすべてのエネルギーが物質と放射線に変換された

こうした理由から、高温のビッグバンが起こったと考えられる。
 
インフレーションが持続している状態は、高いところにある面をボールがすべっているようなものだ。それに対して、構造が崩壊し、エネルギーを放出するということは、インフレーションが終わり、エネルギーが粒子に変換されたことを意味する。インフレーションのエネルギーが物質や放射線に変わるということは、宇宙が急激に膨張し、変化したことを物語っている。E. SIEGEL

インフレーションが持続している状態は、高いところにある面をボールがすべっているようなものだ。それに対して、構造が崩壊し、エネルギーを放出するということは、インフレーションが終わり、エネルギーが粒子に変換されたことを意味する。インフレーションのエネルギーが物質や放射線に変わるということは、宇宙が急激に膨張し、変化したことを物語っている。E. SIEGEL


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翻訳・編集=北綾子/S.K.Y.パブリッシング・石井節子

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