2020年に初めて報告され、当初物議を醸したホスフィン(PH3)分子の検出が7月6日に確認された。英国ウェールズのカーディフ大学で行われたNational Astronomy Meeting 2023で、新たに複数回検出されたことが報告された。
新たな発見はハワイのジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡(JCMT)を使用した最初の50~200時間(初の検出に費やされた8時間よりはるかに長い)に主として検出されたが、NASAの今はなき成層圏赤外線天文台(SOFIA)からの新しいデータも関わっている。
説明のつかない化学
ホスフィンはリンと水素からなる分子で、可燃性のある有毒ガスとして地球では沼や湿地で発生する気体と考えられている。このガスは、低酸素環境に住む微生物によってのみ生成される。もし金星にホスフィンが存在するなら、そこに細菌が存在できる環境があるか、少なくとも説明のつかない化学現象が起きていることを意味している。金星の表面は金属が溶けるほど高温だが、厚い雲の温度は30℃程度だ。しかし、雲の90%は硫酸からなっているので、そこに存在できる微生物は何であれ「極限微生物」に分類される。どんな微生物も浮遊性かつ耐酸性でなければならない。つまり、一連のホスフィン検出は、生命の証拠ではなく、私たちが金星におけるリンの循環を理解していないことを示す証拠にすぎない。
ホスフィンの要因の1つとして火山が考えられるが、そのために必要な火山活動の強度を考えるとその可能性は小さい。
新たな発見
JCMTが2022年2月から2023年5月にかけてホスフィンを発見したことの意味は、それが当初の当初の研究の範囲を大きく広げるものであるため、実に重要だ。金星の雲の中あるいは下に、安定したホスフィン供給源があることも示唆している。「過去数年間に、3種類の機器とさまざまなデータ処理方法を使って5回の検出に成功しました」とカーディフ大学物理学・天文学部の宇宙生物学者Jane Greaves教授はいう。彼女のチームはJCMTを使用した200時間のレガシー調査の一環としてテストを実施してきた。「何らかの安定した供給源があるというヒントを見つけつつあり、それが真実かどうかを明らかにすることがレガシー調査の主要目的です」とGreavesは述べた。
2021年11月にSOFIAのデータを使用した研究チームはホスフィンの痕跡を見つけられなかったが、Greavesのチームはデータを再処理することで、金星の上層雲の中にホスフィンがあることを発見した。「データを見る方法に小さな工夫を加えることで、必ず得るものがあります。複雑なことは一切していません、標準的な技法だけです」とGreavesはいう。