森下氏は次のように主張する。
「飲酒運転や逆走といった悪質利用が進めば、電動キックボード利用者が赤切符の対象となるでしょう。そして利用禁止のユーザーが増えれば、普及には自然と歯止めがかかる。法改正後の初期に、事業者や警察が厳しく取り締まる必要があります」
警察の取り締まり、「最高速度表示灯」でやりやすく
こうした指摘について、特に利用者の増加が見込まれる電動キックボードシェアリングを提供する事業者に話を聞いた。警察庁の発表によると、2020年から2022年までの電動キックボードに関連した事故件数は74件で死亡事故は1件。年々件数が増えているが、7月以降の事故増加懸念についてはどう考えているか。
3500カ所以上のポート(車両設置場所)を持つ「LUUP」を展開するLuupのCEO岡井大輝氏は、「交通系サービスにおいて起こりうる事故を防ぐため、安全性の実装や啓発を行うことが重要」としたうえで、特定小型原付に搭載が課されている「最高速度表示灯」が効果を発揮するのではないかと主張する。表示灯は、最高速度20km/hの時は緑色に点灯し、6km/hの時は緑色に点滅する。
「車両を見れば、最高速度が一目でわかるようになります。巡回中の警察官が取り締まりやすく、運転者も速度モードの切り替えを意識するようになり、未然に事故を防ぐことにつながるのではないかと考えています」
車両の不安定さや転倒リスクについては「LUUPはタイヤを市販のものに比べて大きくしているものの、指摘されている車両の課題はまだある」とし、特に初回の利用においては「いきなり大通りを走るのではなく、交通量の少ない小道で試し乗りしながら慣れてほしい」と呼びかけた。
実際、初めのうちは、初動の加速や風による煽りに不安定さを感じるが、それも複数回で自然と慣れていく。また、最高速度表示灯が誰からでも見える状況にあることは、歩道走行モードへの切り替えを促すうえで効果がありそうだ。
日本を含め、世界300都市で電動キックボードシェアリングを展開するBIRDは、「ジオフェンシング機能」が今後も安全性を確保すると主張する。この機能はGPSによる制御機能で、混雑しやすいエリアに入ると自動でスピードが落ちるシステムだ。2021年から日本で実証実験を進めてきたが、今のところ事故は一切起きていない。
改正道交法では、走行中の最高速度の設定変更を禁止しているが、警察庁は「ジオフェンシング機能を制限するものではない」とし、現在も継続している。BIRDの日本事業を手掛けるBRJ代表取締役の宮内秀明氏は「事故リスクは上がると考えている」といい、当面は歩道走行禁止でサービスを提供するという。
LUUPでは一段踏み込んだ検証が行われており、2022年から内閣府の準天頂衛星を活用した、走行位置把握のための実証を開始した。数センチ単位で位置を把握し、車両が歩道と車道のどちらを走行しているかがわかる。まだ一般公開はしておらず、将来的な実装を目指しているが、「強制的に歩道/車道モードで速度を切り替えられるなどといった技術搭載をしたい」(Luup岡井氏)と話す。