宇宙

2023.07.04 15:00

ニュートリノ天文学が大きく前進 天の川を素粒子で初観測

ニュートリノ・レンズを通して見た天の川を青色で描いた画像(ICECUBE COLLABORATION/U.S. NATIONAL SCIENCE FOUNDATION (LILY LE & SHAWN JOHNSON)/ESO (S. BRUNIER))

ニュートリノ・レンズを通して見た天の川を青色で描いた画像(ICECUBE COLLABORATION/U.S. NATIONAL SCIENCE FOUNDATION (LILY LE & SHAWN JOHNSON)/ESO (S. BRUNIER))

天の川銀河の新しい画像(上)が公開されたことを受け、天文学者たちは、宇宙を観測する「新しいレンズ」の登場を歓迎している。

この画像は光ではなく、ニュートリノと呼ばれる素粒子を捉えることで作成された。ニュートリノは原子よりも小さく、質量は極めて小さい。この画像は、私たちの住む天の川銀河を全く新しい形でとらえたものだ。

大きな一歩

南極にあるアイスキューブ・ニュートリノ観測所のギガトン容量検出器を使用している科学者350人以上からなる国際グループ「IceCube Collaboration(アイスキューブ・コラボレーション)」は、6月29日に科学誌サイエンスに発表した論文で、天の川銀河から高エネルギーのニュートリノが放出されている証拠を見つけたと報告した。

グループのメンバーである米ドレクセル大学のナオコ・クラハシ・ニールソン準教授は「天の川銀河を、光ではなく粒子を使って初めて観測したことは大きな一歩です」と説明している。「ニュートリノ天文学が進化することで、私たちは宇宙を観測するための新しいレンズを手にします」
アイスキューブ観測所の向こうに天の川のある星空と緑色のオーロラが見える(YUYA MAKINO, ICECUBE/NSF)
アイスキューブ観測所の背後に見える天の川とオーロラ(YUYA MAKINO, ICECUBE/NSF)

宇宙線

宇宙線が天の川のちりやガスと相互作用すると、ガンマ線とニュートリノが生成される。ガンマ線は以前から検出されており、2022年にはM77銀河から放出される高エネルギーのニュートリノが検出された

ニュートリノが物質や放射線との間で起こす相互作用は微弱で、検出は極めて難しい。アイスキューブ・ニュートリノ観測所には、南極の氷1立方キロメートルの中に埋め込まれた5000個のセンサーがあり、天の川銀河やさらに遠方から来る高エネルギーニュートリノを観測している。ニュートリノが氷と相互作用を起こした際に微かな光のパターンが生まれ、その一部を追跡していくことで発生源を突き止められる。

今回の発見は、アイスキューブ検出器のアップグレードや、新しい機械学習データ分析ツール導入の成果だ。こうした進歩により、過去10年間で検出されたニュートリノの発生源を見つけられるようになった。

隠れた特性

研究に用いられたデータセットには、アイスキューブの10年間にわたる6万件のデータが含まれている。過去の研究で使用されたものの30倍以上の規模だ。

その結果得られた天の川の画像には、以前ガンマ線が観測された場所に、明るい点が映し出されている。そこは宇宙線が星間ガスと衝突した場所で、ニュートリノの発生源と推定される。

ドレクセル大学の物理専攻大学院生でアイスキューブのメンバーであるスティーブ・スクラファニは「対応するニュートリノが測定されたことで、天の川銀河や宇宙線源に関する私たちの知見が裏付けられました」と述べている。

米国立科学財団(NSF)物理学部門ディレクターのデニース・カルドウェルは「これらの技術は今後も精緻化されていくので、画像の解像度が増し、これまで人類が見たことのない天の川銀河の隠れた特性が明らかになると期待できます」と語った。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫・編集=遠藤宗生

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