経済・社会

2023.07.03 16:30

エネルギー転換の促進「日本は27位」に学ぶこと|サマーダボスリポート2

山本 智之
──ETIスコアランキングでは、日本は120カ国中27位にランクインしています。そもそも、このランキングが意味するところは何ですか。そして、27位という順位はポジティブに捉えてよいものなのでしょうか。

ランキングは興味関心を惹くためのものだというのが私の考えだ。議論の本質は(ランキングのテーマについて)何がなされてきたのか、そしてこれから何ができるのかといった点にある。日本は自国のエネルギー資源が少ない。そんななかで、より良いポジションを確保するにはどうすればいいのか、どのような角度から検討すればいいのか。ランキングはこうしたメッセージを伝えている。

──ランキング結果の詳細を見ると、日本は環境整備の5つの指標の中でも特に「イノベーション」と「教育と人的資本」のスコアが低いです。

イノベーションのスコアが低かった点は意外だった。イノベーションをいかに早くエネルギー転換の仕組みに組み込めるかがポイントだと思う。既存の確立されたシステムがあるほど、変化をもたらすのは難しい。

教育については、国民が新しいエネルギーに移行する準備ができているか、あるいは学校において(エネルギーの移行に関する)教育が行われているかなどが課題だと思う。

人的資本については、多くの雇用を生み出しているエネルギー源から別のエネルギー源に移行する場合、労働市場がこれらの変化に追いつく必要がある。そのためにはトレーニングや新たな人材受け入れなどが必要だ。これもまた、(日本のランキング結果に見られる)課題だ。そして、これは日本だけの話ではない。

日本は(東日本大震災における)危機的な状況やエネルギー不足、エネルギーの自給自足問題などがあるなかでも電力需要を最適化することに長けている。次の段階を目指すためにはサプライチェーン全体、さらには人々の価値観にまで働きかける必要がある。生産現場だけを最適化するのではなく、製品がどこから来てどこへ行くのかに目を向け、エネルギー消費を総合的に見る必要があるのだ。

エネルギーの転換は地球環境の持続可能性の話だけではないということを、一般の人々がどれだけ理解しているかが重要だ。他国を見ても、安全保障のためにもエネルギーを節約しなければならないという意識がとても薄い。 

──報告書では、日本のエネルギー転換が他国と異なる点として、天然資源や自然エネルギーのためのスペースが不足していることと、原子力に依存してきた歴史的経緯の2点を挙げています。

先進国はエネルギーシステムが確立されている傾向が強い分、変革に苦労している。エネルギーシステムを劇的に転換させるにはさまざまな変化が必要だ。そこには困難が伴う。 

多くの人たちが私たちに、日本の原子力に対する考えを聞いてくる。反対する人がいるのは理解できるが、経済成長を続けたいのならある点において妥協するほかないというのが世界の現状だ。

一方で、いいニュースもある。小型モジュール炉(SMR: Small Modular Reactor)の開発が進んでいるし、核燃料サイクルに関する新たな技術も登場している。世界経済フォーラムのコミュニティにも、これらに取り組んでいるメンバー企業やパートナーがいる。

──世界がよりよい方向に向かうためには、情報をベースに正しい「問い」を掲げ、適切な課題を設定することが大切です。

私は常に、課題を適切に見極めれば物事は解決できると考えている。問いと課題が明確になって初めて、私たちはそれを解決するために頭脳を働かせることができる。

使命感を持ち、課題解決に向けた道を指し示す。そうすれば、現実は理想へと近づいていく。

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