ジーニアスエピソードは幼少期に限らない
「少し落ち着いてきました。自分の中にもそういった条件をみたすエピソードはありそうです」と小池くんは言った。「しかし元も子もないことを言えば、エピソードがジーニアスエピソードになるかは、結果としての偉業次第ではないだろうか。そうでなければそのエピソードが示すのはその人がただの変態であることだけだ」と私が言ったところ、小池くんの顔がわかりやすく歪曲したため「大丈夫。エピソードは何も幼少期に限る必要はない。小池くん、君はすでに十分変態だよ。だからあとは他人のジーニアスエピソードに惑わされることなく偉業を成し遂げればいい」と慰めた。
「劣等感、ねたみ、嫉妬はきりがないですよね。特に現代は身の回りの人だけでなく、SNSなどで自分が取り組んでいる分野の優れた人を容易に探すことができますし。冷静な気持ちでメタ的に他人のエピソードや人となりやスキル、やっていることを整理することで、他人ではなく自分にベクトルを向けることができるのかもしれませんね」と小池くんが斜め上を見て急に一般論のようなことを語り出したので、もう大丈夫そうだろうと思い、次のセミナーの会場に向かった。
後日。渡辺くんと会社の廊下ですれ違った際、「最近、小池が会議中に考えるときに頭のネジを回すような仕草をしたり、忍者のように印を組んだりしているんですけど、彼に何か言いましたか?」と聞いてきた。私の話の半分以上は小池くんに伝わっていない気がする。