安全性の低下した世界を旅することの影響
世界の平和度が下がると、経済の不安定性が増し、世界各国の国内総生産(GDP)は大幅に減少する。人々が戦いに明け暮れたり、生活に不安を感じたりしていれば、芸術を創造したり、家を建てたり、事業を運営したり、訪ねてきた家族をもてなしたりはできない。また、各国が他国について渡航先として安全でないと判断すれば、観光収入は減少し、旅行業界はいっそう影響を受ける。
たとえば、英外務省は最近、渡航禁止国リストにロシア、ウクライナ、イラン、スーダン、ベラルーシを追加した。英紙テレグラフによれば、これら5カ国は世界の土地面積の15%を占める。
このほかアンゴラ、バングラデシュ、カメルーン、コロンビア、エチオピア、ジョージア、インド、イスラエル、マレーシアなど、国内に英国政府が渡航を推奨しない地域があり、部分的に危険だとみなされている国が44カ国ある。
さらに、マリのトンブクトゥ、ロシアのサンクトペテルブルク、ベネズエラのエンジェルフォール(アンヘルの滝)、チャドのエネディ高原、シリアのパルミラなど、現在観光客が訪れることのできない世界遺産が複数ある。また、ウクライナでの戦争の影響で、欧州の空域の20%が飛行制限の対象となっている。
同時に、危険とみなされている国を訪れることを目的とした旅行者の活動が活発化しているとの報道もある。米セーラム州立大学のローリー・クレブス教授(地理学・サステイナビリティ学)は米誌ニューズウィークに、高額の旅費を支払える人にとってはソーシャルメディアが、他の人には行けない遠方を旅行して写真を投稿したいという欲求を煽る存在となっていると語った。
しかし、IEPの調査結果が示すように、不安定性は伝染し、地域を越えて広がる恐れがある。リスト最下位の国々なら自明だろうが、平和でない国の軌道を修正するのは非常に難しく、何年もかかる。
国内の広域が安全ではないとされる国を旅行しても、政府に変化を迫るインセンティブはほとんどない。この事実が意味するのは、日々の生活において平和を享受できる国に住む人は、そうでない国へ旅行する前に考え直すべきだということかもしれない。
IEPの創設者であるスティーブ・キレリアは「休暇中は誰だってリラックスしたいもので、暴力のない国ほどそれに適した場所はない。世界で最も平和な上位10カ国が、いずれも世界屈指の人気観光地である理由の1つだ」と指摘。「このことは、平和によって国民の健康とウェルビーイングが向上するだけでなく、実質的な経済的利益がもたらされると各国政府に示すはずだ。だから、次に休暇先を検討するときは、平和な国を選ぶという行動で意志表示してみてほしい」と述べている。
(forbes.com 原文)