自衛隊関係者らがみたプリゴジンの反乱

エフゲニー・プリゴジン(Photo by Stringer/Anadolu Agency via Getty Images)

一方、ウクライナ情勢への影響については、元幹部の1人は「ワグネルが戦っていたのは、バフムートなどの一方面に過ぎない。ロシア軍はウクライナの東北部から南部にかけて全方面で戦っている。ワグネルの問題が起きたから、ロシア軍が全方面で弱くなるということにはならないだろう」と話す。一方、ワグネルの兵士らがロシア軍と契約しても、軍が本当に掌握できるかどうかについては、「軍のエリート将校が、囚人出身の兵士に武器を持たせて戦わせたいと思うだろうか」と語り、別問題だとの見方を示した。

今回の「プリゴジンの乱」について、元幹部の1人は「近代軍では考えられない事態」とも語る。「自衛隊では指揮統一の原則がある。必ず指揮官に権限を集中する。指揮官が2人いる軍隊が戦えるわけがない。フランス軍の外国人部隊も英国軍のグルカ兵も、仏軍と英軍がそれぞれ指揮している。指揮権が別にあって、ましてや囚人に武器を持たせるなんて、想像もできない」

一方、自衛隊幹部の1人はバフムートの戦いをみて、旧日本軍が1944年3月から7月にかけて行ったインパール作戦を思い出したという。軍上層部が補給を無視した作戦を立案し、現場の要請に耳を貸さない姿勢を続けた結果、7万人以上の死傷者を出す悲劇を生んだ。この幹部は「全体の戦況を見通さず、無理な局地戦を敷いた点でインパールとバフムートは似ている。上層部が現場の声に耳を貸さない点も同じだ」と話す。

インパール作戦では、第33師団の柳田元三師団長が、部隊の全滅が避けられない状態だとして、第15軍の牟田口廉也司令官に作戦中止の意見書を出した末、師団長を解任された。第31師団の佐藤幸徳師団長は1944年5月末、独断で師団の撤退を命じた末、やはり解任された。

プリコジン氏の反乱は、ワグネルの部隊や兵士を救うための行動というよりも、「プーチンの側近としての存在感を維持するための身勝手な行動」(自衛隊元幹部の1人)という見方が強い。それでも、元幹部の一人は「インパール作戦での出来事は、生きるか死ぬかという極限状態で起きた。自衛隊は幸い、戦後に一度も戦争を経験してこなかった。今後もし、同じような極限状態が起きた時に備えるうえで、今回の反乱劇は参考になった」と語った。

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文=牧野愛博

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