経営・戦略

2023.07.03 10:30

ユナイテッドアローズの構造改革を後押しした人づくりと創業者のメモ

振り返ると、松崎は必ずしも一直線でキャリアを築いてきたわけではない。しかし、自分に迷走を許したからこそ本当にやりたいことにたどりついた。人材交流を目的に組織再編したのも納得だ。組織の土台が整いつつあるいま、その上にどのような事業を展開しようとしているのか。松崎は社長就任時、創業者の重松理から当時の資料を借りた。その中の「衣食住のライフスタイルショップをやりたい」というメモがあらためてヒントになった。「創業30年以上ですが、まだ衣類にとどまっている。新しいユナイテッドアローズをお客様に伝えていくために、ファッション以外の領域でも価値提供に挑戦していきます」

新しいビジョンは、Zoomでスタッフに直接語りかけている。セッションは年齢役職問わずに誰でも参加できる。松崎のこだわりのひとつだ。「横浜店の店長時代、同時期にスタッフが5人辞めたことがありました。店の規模が大きく、私はスタッフひとり一人に目を配れていなかった。それから月に一度は話すことを自分に課して、誰と話していないかチェックしていました。それ以来、直接話すことを重視しています」セッションは双方向で、時には答えに窮する際どい質問も飛ぶが、真正面から受け止める。

「社員がいちばん大事なので。株式会社は株主が大切であることは認識しています。でも活動の源泉は社員、競争力はそれしかない。誤解されては困るのですが、本当のことだから書いても問題ないです」

訂正するどころか、あえて強調した松崎。その姿に経営者としての「美意識」が垣間見えた気がした。


まつざき・よしのり◎1974年生まれ。98年にユナイテッドアローズ渋谷店にアルバイトとして入社。その後店長や部門本部長を経て、2012年執行役員、18年に取締役常務執行役員、20年に取締役副社長執行役員を経て、21年4月より現職。

文=村上 敬 写真=大中 啓

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

連載

10年後のリーダーたちへ

ForbesBrandVoice

人気記事