共通概念は「マルチステージの人生」
──教授は新刊で、生き方のマルチステージ化が進むにつれ、従業員のニーズも変わっていくと指摘しています。日本では、人的資本経営が話題です。企業が、人生のマルチステージ化に対応しながら「優秀な人材を集める」ための条件とは?グラットン:「柔軟な働き方」を提供することだ。先日、私が教える経営大学院の学生に、「この1週間で学んだ最も重要なことは?」と尋ねたところ、「マルチステージの人生」の必要性をトップに挙げた。つまり、組織で働いたり、辞めて旅をしたり学んだりといった人生を送ることだ。
前作『LIFE SHIFT 2』(第6章「企業の課題」)でも書いたが、企業は入社年齢を多様化し、人々が人生の異なるステージで入社できるようにすべきだ。学び直すための休暇を与えるのもいい。副業やプロジェクトベースの勤務形態、ジョブ・シェアリングなども一手だ。
日本人留学生は、日本企業ではマルチステージの人生を送れないことを案じ、起業や他企業での勤務を考えている。柔軟性がなければ、トップ人材は集まらない。
──人的資本経営をどう思いますか。
グラットン:企業は長年、「人材は最も重要な資産だ」と言ってきたが、建前にすぎなかった。だがいま、その重要性に気づきつつある。投資家が企業に対し、人的資本への投資を求め始めたからだ。また、ネットに企業の口コミ情報があふれるなか、従業員をおろそかにすれば、労働市場全体に知れわたる。
──来たるべき未来に備え、個人の働き手はどのように準備をすべきでしょうか。
グラットン:コロナ禍で、人々はすでに働き方を再考している。米国の「大退職」現象が、その象徴だ。「もうこんな働き方はご免だ!」と考える人々の大半が取る唯一の道は、会社を辞めることだからだ。
企業側は従業員の「主体性」を甘く見ていた。特に日本では、企業が人を必要としている以上に人々が仕事を必要としている、という考え方が当たり前だった。だが、人口減を考えると、企業にとって重要なのは、人々が望む仕事を提供することだ。
一方、働き手にとって最も重要なのは、自分の仕事を「理解する」ことだ。自分の仕事に求められているのは「集中」なのか「調整・協調」なのか。それによって、ベストな仕事のあり方が変わるからだ。
──『リデザイン・ワーク』の概念は、教授がこれまでの著書で示した問題意識と、どうつながっているのでしょうか。
グラットン:『リデザイン・ワーク』と前作に共通する概念は「マルチステージの人生」だ。長寿化で勤労年数が伸び、テックの進歩で世の中が変わるなか、学びながらマルチステージの人生を送るという考え方は必然だ。コロナ禍がなかったら、新刊は生まれなかった。人々が柔軟な働き方を求めていることをコロナ禍が気づかせてくれた。