リデザインのための4段階プロセス
──新刊には、コロナ禍が「根本的な前提を問い直し、(中略)仕事のやり方に関する新しい物語を紡ぎ出す機会をもたらした」とあります(「はじめに」より)。そして、これを契機に、誰もがやりがいや生産性を高められるように「働き方のリデザイン(再設計)」をすべきだと。グラットン:まず言いたいことは、働き方のリデザインを何段階もの「デザインプロセス」として考えなければならないという点だ。自社の仕事とは何かを理解し、未来の仕事をどのように構成すべきかを考え、モデルをつくって実験し、拡大縮小していく。「デザイン思考的アプローチ」だ。
働き方のリデザインは「4段階のプロセス」から成るが、1つ目は、自社の重要な要素を「理解する」ことだ。その仕事は本当に重要なのかなど、仕事に関する考察だ。2つ目が、未来の仕事のあり方を「新たに構想する」ことだ。将来を見据え、仕事を別のやり方で行う方法を考える。
3つ目が、「モデルをつくり、検証する」ことだ。構想を具体的なモデルに落とし込み、試す。つまり、実験段階だ。例えば、英食品・日用品大手ユニリーバは、「週4日勤務制」をニュージーランドで試行中だ。そして、最後の段階が、モデルに基づき「行動して創造する」こと。すべての従業員が新しい働き方から恩恵を得られるよう工夫し、新たなモデルを確立させる。
各プロセスの重要性に濃淡はない。全プロセスを実行することが非常に重要だ。
──新刊では、企業が新しい仕事のあり方をリデザインする際にコロナ禍の経験から引き出せる「ポジティブな材料」が5点挙げられています。説明してください。
グラットン:まず、「デジタルスキルの向上」だ。2つ目が「官僚主義の撤廃」だ。数日で在宅勤務に移行するなど、企業は官僚主義を葬り、物事の進め方を変えた。3つ目が、「柔軟な働き方」の「ペイオフ(恩恵)」と「トレードオフ(相殺されるもの)」がわかったことだ。出社せずに在宅勤務を続けていると、人とのつながりを失う。
4つ目が、在宅勤務における「オフ」スイッチの大切さを悟ったことだ。一日のうち、どうオフラインの時間を確保するか。その習得が今後の課題だ。そして、5つ目は、「人と人とのつながり」が非常に重要であることを認識したことだ。
──パーパス(存在意義)についても触れていますね。企業は仕事のあり方を見直すことで、「どのようなパーパスを強化したいのか」を考える必要があると。
グラットン:企業は、何のためにリデザインするのかを考えなければならない。従業員の人生を高めるためなのか? 製品の質を上げるためなのか? 何を達成したいのか? 自社のパーパスを問うことが、働き方のパーパスを考える一助になる。
──大企業は規模が大きい分、抜本的なリデザインは難しいのでしょうか。
グラットン:全面的なリデザインをすべきだとは言っていない。日本企業の問題である柔軟性のない働き方を再考するだけでもいい。ダボスで会った日本企業のCEOらは、「いまも見直しの最中だ」と話していた。コロナ禍前に戻ってはいけない。
──具体的な企業の成功事例は?
グラットン:大半の企業は、まだ実験段階であり、困難な問題に挑んでいる最中だ。「実験」が重要な意味をもつ。非常に多くの日本企業がリデザインを模索している。例えば、富士通では在宅勤務に移行した際、さまざまな従業員のニーズに応え、「シェアードオフィス」と契約するなど、異なるタイプのオフィスを用意した。
米IT系コンサル大手アクセンチュアは、メタバース(仮想空間)や拡張現実(AR)など、「没入型学習」の実験を進めている。前述したように、ユニリーバは一部の国で週4日勤務制を実験中だが、その新たな働き方を社則に組み込むという一大決定を行うには、データの検証が必要だ。