ゼロリスクを変革する力
「最近の起業家は、資金調達やバリュエーションについては耳年増になっている一方で、資金繰り表をつくっている? って聞くと、それ何ですか、という反応も珍しくありません。会社の生命線である現金を管理する感覚が薄い人が少なくない」。要は、「資金繰り」という地に足の着いた活動と「ビジョンの実現」や「価値創造」といった高い次元の目的の折り合いをつけることだ、と朝倉は説明する。
新興企業に限らず、日本企業全般に当てはまるが、いまの企業は目先の利益や売り上げを最大化するのを優先するため、大きな構想を描き、リスクを取って投資しようとしない。そうした硬直したパラダイムに基づく企業経営が日本経済の成長を阻む要因に、朝倉には映る。
「日本人はゼロリスク信仰が強い。リスクは悪いものではなく、期待値の揺れ幅なのだから、大きければリターンも大きくなる。リスクをゼロに抑えてしまったら、リターンもゼロです」
企業のゼロリスク志向の影響で未来への投資は回避され、経済は活力を失う。社会の負債のしわ寄せは次世代の若者に行く。
こうした日本の現状に憤りを覚える朝倉は、「既存のパラダイムを打破し、日本の未来を変えていくには、スタートアップが原動力になる」と考える。
朝倉は2023年1月、アーリーステージの起業家の支援に特化した「アニマルスピリッツ」を立ち上げた。アニマルスピリッツとは経済学者ケインズが提唱した言葉で、野心的な意欲という意味だ。
不確実な状況下を切り抜ける原動力こそ、未来を変革する力になると朝倉は信じている。
「『未来世代原理主義』。自分はそう言い切れる。未来世代のための社会変革がパーパスです。いまあるお金を使って、次世代の未来のための価値をつくる。それが日本で僕ができることだと思うんです」
あさくら・ゆうすけ◎アニマル・スピリッツ代表パートナー。競馬騎手養成学校を経て東京大学法学部を卒業後、コンサルティング会社に勤務。ネイキッドテクノロジーに復帰。ミクシィへの売却に伴い同社に入社後、CEOに就任。スタンフォード大学客員研究員等を経て、シニフィアンを設立。スタートアップエコシステム協会理事。