国民食となった「カップヌードル」と、斬新な演出のテレビCMの数々。商品力と宣伝力の強さで群を抜く日清食品の営業課題は、その好環境こそが原因だった。
旅行代理店と電気機器メーカーでの営業職を経て2001年に入社し、現在本社にて営業改革の指揮をとる渡辺英樹が、数年前を振り返る。
「当社は開発やマーケティングの存在感が大きいぶん、営業部員には『自分たちは売り子』、すなわち『与えられたものを売ればいい』という潜在意識がありました。
しかし、商品情報を案内するだけの仕事は、いずれ機械で十分になる。安藤徳隆社長自らがDXによる生産性の向上を強く訴求し始めた19年ごろから、『本当にセールスが要らなくなってしまう』という危機感が強まっていました」。
それでも、顧客との会話から課題を見つけて個別に提案する仕事は、まだまだ生身の営業部員にしかできないはずだという確信があった。
「これからの営業は、どこでも商品の魅力を伝えられる『汎用性のある提案力』を鍛えていかねばならないと思ったのです」(渡辺)
抜本的な意識改革のため、渡辺はまず「営業本部」を「ビジネスソリューション本部」にする部署名の変更を提案した。
商品の提供だけでなく「ソリューション=課題解決」こそ自分たちの仕事であるという意味を込めたネーミングだ。安藤社長も前のめりでこれを承認し、21年に組織を一新。同時に、これまで各担当者が手帳や脳内で管理していた顧客情報や提案内容のほか、日々の行動記録まで、あらゆるデータの集約を開始した。
「社内システムには、各商品の売り上げなど『結果』のデータはある程度蓄積されていましたが、そこに至るまでの『行動』のデータが圧倒的に不足していました。部員たちの行動データを集めたところ、例えば、就業時間の大半を上司から求められる資料作成に割いているなど、実は管理側が無意識に生産性を下げている場合も多いと判明しました」(渡辺)
そこで、バラバラだった資料の入力フォームを全国で統一。地域や対人関係における業務量の格差を埋め、セールスの生産性向上に努めた。
「セールスに必要なのは、お客さまとの会話と、それを具体的な提案につなげるための思索の時間。理想としては、これを業務全体の50%程度まで増やしたい。デジタルの活用によって、その道筋が見えてきました」(渡辺)