日本中の教育を「自律型」に変える
藤野:レウォンさんは、教育を受ける立場で感じたモヤモヤから新しい学び場をつくる一方、工藤先生は教育する現場から新しい教育システムをつくり、日本中の教育を変えようとされていますね。工藤:10年以内に、日本中の学校を自律型に変えるつもりです。未来を協力して築いていける子どもたちが育つ学校へ変えるには、ふたつの変革で十分。ひとつは、学校を社会の縮図にして、子どもたちにその経営をゆだねること。「学校運営を君らにあげるから、この社会で起こる問題を、全部自分たちで解決してごらん」と子どもたちに任せ、大人はあくまでその支援に徹する。もうひとつは、受け身の授業スタイルを全部やめて、子どもが学びたいことが学べる仕組みにすればいいのです。
レウォン:主体的な学び、いいですね。学校は本来、子どもの学びの補助役だと思います。子どもは自分でいろいろ考え、調べる過程で学び取ることができる。教師は、そこに新しいきっかけを与える存在であるのがよいと思います。
工藤:問題はこの教育をどう全国の学校に波及させるか。「子どもによる学校の運営」「主体的な学び」を行う学校を、新しく立ち上げるなら、それほど難しくない。しかし、その学校には限られた人数の人しか通えませんし、その成功体験は、ほかの学校に横展開できない。既存の教育に染まり切っていて、現場でよかれと思って教えている人たちを変えるのは難しいからです。
日本中の教育を変えるには、そんな現場が「なんだ、これ。絶対やったほうがいいじゃないか」とまねしたくなる新しいシステムをつくり、全国へ自然と横展開させるしかありません。私たちは、2024年4月にその新システムを発表します。校長を務める横浜創英中学・高等学校から開始しますが、ある県の教育委員会とすでに協定を結んでいるので、その県のいくつかの公立中学・高校へとシステムをまず展開。いずれ日本中の公立の学校と協定を結んで、横展開します。レウォンさんのような子どもたちも通える学校になるはずです。
藤野:実際、どんな教育システムなのでしょうか。
工藤:授業は選択制で、異なる学年でも同じ内容。わが校の英語の授業は、中学全学年が一緒に受けられて、5種類から選べます。「教科書で学ぶ」クラスもあれば、「英語が関係するなら、AI型教材を使っても、YouTubeを見ても、何をしてもいい」クラスや、「Minecraftを使い、SDGsをテーマに国際大会でプレゼンする」クラスまであります。
演劇、美術、音楽、体育などは、文化祭のようなイベントで学びます。イベントに向け、自分のやりたいことに、計画を立てて取り組む。バンド、演劇、ダンスなど、やりたいことを選んで取り組めば、それが科目として認定される。こんなすべての授業を子どもたちが主体的に選べる教育システムを、いまの学習指導要領に従ったうえで設計中です。