人の営みと自然の共存を叶えたい
「ITOMACHI HOTEL 0(ゼロ)」では、ホテルが日々取り組んでいる省エネルギーと創エネエルギーについて、宿泊客に口うるさく伝えるようなことはしない。情報発信はエントランスに常設されたインフォグラフィックスで行い、希望者にはゼロエネルギーの取組が分かる視察対応などを実施している。ホテルで使用したエネルギーはインフォグラフィックスで毎日確認できる。客室の稼働率や天候によっては、太陽光発電で生み出すエネルギーを使用エネルギーが上回り、ゼロエネルギーが達成できない日もある。だがそれによって、必然的にエネルギーと自然環境とのつながりに目が向く。
「人の営みをむやみに止めることなく自然と共存させていくというのが、これからの施設のあり方だと思っています。インフォグラフィックスでは、エネルギーと人々の営みの関係性を意識して表現しました」
ゼロエネルギーを達成すると、だんじりを担いだ人々のイラストが現れる。
「これは、江戸時代から300年、西条市で続いてきた五穀豊穣を神に感謝する“西条まつり”の様子です。これまで脈々と続いてきた人の営みと自然との関係にあらためて目を向けるきっかけになれば嬉しいです」
自律型のまちづくりが未来につながる
「ITOMACHI HOTEL 0(ゼロ)」で創られたエネルギーは蓄電できるようになっており、災害発生時には、「いとまち」全体で3日間800人分の非常用電源として使用できるようになっている。国土の脆弱性から自然災害が発生しやすく、「災害大国」と呼ばれる日本。どこに依存するでもなくライフラインを自給自足できることは、これからの時代において大きな強みになるだろう。
同様の考え方で、ホテルでは料理に使用する食材からアメニティ、館内アートに至るまで、地元のモノを積極的に採用している。その地域ならではのモノを使用することで、輸送にかかるCO2を削減できるほか、文化の発信によって地域の持続的な発展にもつながる。
今後の展望として、明山氏は「ローカルスタイルホテル」というキーワードを挙げる。
「ニューヨークに行ったら、地元のスーパーで買った食材で朝ごはんを作って、ランニングして、カフェに行って、とニューヨーカーみたいな暮らしをしてみようと考える人も多いと思います。
そんな感覚で、ゲストが自ら手足を動かしてその地域ならではの“ローカルスタイル”を楽しめるホテルにすることで、いとまちの魅力を実感してもらいたいと思っています」
具体的にホテルでは、地元生産者を巡るツアーや雄大な自然を満喫するアクティビティの展開、地域住民へのシェアスペースの解放などを計画している。また「糸プロジェクト」としては、「いとまち」に和食レストランや温泉施設も、ゆくゆくオープンする予定だ。
「ゲストが泊まるフィールドはホテルではなく、街全体と捉えています。ホテルを起点に、地域住民、旅行者、企業、行政などさまざまな方がぐるぐると交わるようにして関係人口を増やし、いとまちを盛り上げていきたいですね」
自律型のまちづくりによって、見失われていたその土地ならではの資源に再び光があたるようになった西条市。
同市のように、各地域が自律自走しそれぞれに輝き出したとき、日本は一体どうなるだろう。今後の広がりに期待を込めて、ゼロエネルギーへの取り組みを追っていきたい。
明山 淳也(あけやま・じゅんや)◎GOODTIME代表取締役。「ともに創る、いきつづける価値。」をビジョンに、都市におけるホテル、オフィス、商業施設、住宅などあらゆるアセットタイプのコンセプト開発含めた事業企画・ディレクション・プロジェクマネジメントなどを手掛ける。代表実績では、「GREEN SPRINGS/SORANO HOTEL」「THE CAMPUS」「白井屋ホテル」「GOOD NATURE STAITON」などがあり、宿泊施設では新しい取組に挑むプロジェクトに携わっている。