農業総研が目指すのは、「流通変革によって、農業を持続可能なものとすること」だ。
直売所事業では生産者が自ら、売り方を考えなくてはならない。実際、売上を伸ばしている生産者は、ネーミングやパッケージに工夫を凝らしている。つまり、生産者自身が流通の仕方を変えている。産直卸事業では、生産者ではなく農業総研がブランディングを変え、農産物の価値を高めようとしている。
「農業の価値向上は、この国にとって喫緊の課題です。仕事がきつく、収入も低い職業であれば、誰も後を継ごうとはしません。都市で生活する人たちにとっても、このままでは美味しい野菜を手頃な価格で手にいれ続けることが不可能になってしまいます」
農林水産省の調べによると、生産者の平均年齢は67.7歳。高齢化の進展に歯止めがかからない状況だ。併せてその数の減少も深刻化している。生産者の数は2015年から2020年の5年間で46万人減少し、152万人。この国で農業を持続可能なものとするためには、一刻も早い農業の価値向上が不可欠なのだ。
農産物のブランディングで改革を
同社は2022年11月、既存の農業流通のあり方に一石を投じるブランディング事業をスタートさせた。それが「畑まるごと」シリーズだ。農産物は流通過程で、規格品と規格外品に分けられる。規格外品とはサイズが小さすぎたり、形が不揃いだったりする農作物のことで、ジュースなどの加工品用として安価に売るか、廃棄せざるを得ない。形が“規格”と異なるというだけで、味はまったく遜色ないにもかかわらずだ。
同社で農産物のブランディングを統括している堀内寛社長は、「規格品と規格外品という区分けは、現代の生活者の嗜好に必ずしも沿っていないのではないか」と考えたという。
(左から)及川智正会長、堀内寛社長
そこで「畑まるごと」シリーズとして、新たなパッケージングで有田みかんを販売することにした。同シリーズの特徴は、規格品・規格外品という分け方を止め、生活者の購入目的に合わせた区分けにしている点だ。
たとえば「少し贅沢だけれど、すごく甘いみかん」が食べたいという生活者のためには「とびっきりご褒美みかん」。「手頃な価格でお腹いっぱい、みかんを食べたい」という生活者のために「気軽に食べたいみかん」。従来の規格外品に当たるものも、捨てるのではなく新しい区分けのなかに入っている。まさに「畑まるごと」味わってもらおうという試みだ。
ほかにも、今年6月には「世界農業遺産」(国連が、何世代にもわたり継承され将来に受け継がれるべき重要な農林水産業と認定)をブランド化し、一部のスーパーで販売を開始した。第一弾は、熊本県・阿蘇のアスパラガス「阿蘇パラ」だ。