さて、現在のアメリカの状況はどうだろう。同国におけるEVの平均航続距離は500km弱で、2023年モデルのルーシッド・エアが830kmで現在の業界トップを記録、また、テスラは現在15分で80%までの充電ができる。トヨタの新技術が実現されれば、いずれをも圧倒するだろう。
しかし、疑問を挟む声は当然ある。「今までのEVに関する鈍い動きを見ていると、トヨタの発言はすべて精査する必要がある」と、アメリカのメディア「TechCrunch」は言う。トヨタのEV導入の遅れや、豊田章男前社長時代に指摘されたEV推進へ抵抗するロビー活動が批判される中、今回の新プラン発表が同社の株主総会ではなく、その前日だったのだから。
政府や投資家はトヨタにオールEVをうながしているが、「同社は、EV、PHEV、HEV、燃料電池車(FCEV)を含むハイブリッド戦略に固執し続けている」と、アメリカの有力ウェブサイト「electrek」も指摘した。
それでも、トヨタ社の株主は先週、取締役会を支持し、豊田章男会長を含む10人の取締役全員に賛成票を投じた。そして、気候変動に関するロビー活動の透明性を高めるよう求める決議案には反対票を投じている。
今回発表されたリリースの、満充電で1200kmの走行ができること、そして10分だけ80%までの急速充電ができるようになるというトヨタの最新技術説明は、大胆な主張だ。
だから、トヨタが近い将来「EVが主流になることを認め、ゼロエミッション車のラインアップに積極的にコミットするまでは、株主は懐疑的な視線を持って説明責任を求め続けるべきだ」と非営利団体PublicCitizenは指摘した。30年間自動車業界をウォッチして来た僕も、株主が信任したのであれば、その期待に応えてトヨタは新技術を実現する責務があると考える。
ところで、今回の発表の中に、もう1つ目が止まる話題があった。トヨタは、ロケットに使われる極超音速技術のような、抵抗を減らすことができる新しい技術をEV用に研究しているらしい。トヨタによると、三菱重工業の宇宙システム部門と共同でイノベーションを模索しているとのこと。
これらの多くは、トヨタが研究し、開発を計画、あるいはすでに開発しているコンセプトであることを念頭に置いておいておこう。トヨタは過去にも、全固体電池のような「先進的なEVバッテリー技術」に関して、一貫して大胆な主張をしてきた。もし研究が進み、開発が現実的になれば、夢はかなり大きいと言えるだろう。それらはまだ実現してはいないが、4月に佐藤新社長が、EVに本気で取り組む気合いを表明しているし、希望を持って見守ることにしよう。
国際モータージャーナリスト、ピーター・ライオンが語るクルマの話
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