VRとAR
VR(仮想現実)とAR(拡張現実)はアクセシビリティやイノベーションのあり方を変える技術です。例えば、家族と親密な関係を維持する上で役立つほか、ヘルスケアでは手術などの重要度の高い場面で威力を発揮します。しかし、仮想世界にあまりにも没入しすぎると、社会的に孤立したり、依存状態になったり、現実世界との関係が崩壊したりする事態を招きかねません。
個人と社会のウェルビーイングを低下させないために、仮想世界がもたらすメリットを享受する一方で現実社会とも健全な交流を保つバランスが必要です。例えば米国では「孤独」の蔓延とそれが心身の健康に与える深刻な影響についての啓発が大きく進められています。
量子コンピューティング
従来のコンピューターでは現時点では対応できない複雑な課題を解決する可能性を秘めているのが量子コンピューティングです。コンピューターの計算能力に革命をもたらすとの期待が高く、暗号技術や創薬、最適化などでの応用が見込まれています。その一方で、既存の暗号化方式が破られるというサイバーセキュリティ上のリスクが懸念されています。量子コンピューティングの進歩に伴い、センシティブな情報を保護するために新しい暗号アルゴリズムを開発する必要性が生じてきます。
新興テクノロジーと人類が直面する危機の関係性
社会にもたらす影響
新興テクノロジーの導入は、社会に劇的な変化をもたらす可能性があり、労働市場や社会のダイナミクス、権力構造までもが様変わりするかもしれません。新興テクノロジーによって社会に存在する不平等が拡大しないようにするために、新興テクノロジーには誰もが公平にアクセスできるようにするとともに、デジタル・デバイド(情報格差)対策に取り組むことが欠かせません。新興テクノロジー導入による社会的影響として浮上しつつある課題としては、例えばChatGPTや予測AIの浸透によって人間同士のつながりが失われたり思考や直感を使う機会が減ったりすることが挙げられます。
また、AIバイアスやアルゴリズムによる意思決定やプライバシー侵害などの倫理的な課題も発生しています。公平・公正な社会を実現するために、これらの課題にも対処していくことが求められます。
環境に与える変化
新興テクノロジーは、環境サステナビリティの推進や気候変動への対応に貢献する可能性を秘めています。その反面、新興テクノロジーの開発と展開が環境に負荷を与えることもあります。電子機器への需要の高まり、データセンターでのエネルギー消費の増大、電気・電子機器廃棄物の増加が持続可能な開発における課題となっています。世界経済フォーラムがまとめた「グローバル目標達成のために技術をつなぐ:政府の行動枠組み(Harnessing Technology for the Global Goals: A framework for government action)」では、地球温暖化に起因する自然災害に対するレジリエンス(強靭性)の強化や二酸化炭素排出量の削減、ネットゼロ達成に必要な対策の策定においてデジタルテクノロジーが重要な役割が果たすと指摘されています。