キャリア・教育

2023.06.22 18:00

ハサミと櫛の技術職 「ヘアカット」は人の何を変えるのか?

朝吹:こういう活動を途上国でもっと伸ばしたいと思って、カンボジアやベトナムに東京の若い美容師を連れて行くと、一生忘れられない経験として残るようです。

ここ数年はコロナで海外に行けなかったので、東京の有名美容室の方が立ち上げた、養護施設から就職していく子どもたちの髪を無料でカットする活動をしていました。施設の子どもたちは原宿の美容室は敷居が高いし行くチャンスもなかなかありません。彼らは自己肯定感が低い傾向にあるのですが、一流の美容室に招いてカットしてあげるとモチベーションがすごくあがるんですよ。

美容師の方は、普段モデルやタレントさんの髪をやっているので、プライドが高くなりすぎる傾向にあります。だからこういう活動で社会とのつながりを確認してもらうのもいいなと。こういう活動をもっと広げていきたいのですが、継続するにはやっぱり企業の協力がないと難しいところがあります。ビジネス業界の人に理解があるといいなと思いますね。

中道:カットの技術を途上国の人たちに継承することもそうですけど、日本の素晴らしい技術が世界に伝われば、世界の人の生活がもっとよくなったり楽しめたりできますよね。そういうことが日本の次のステップにつながるはずだ。今は暗い話題ばかりの日本にもポテンシャルは大いにあるはずだ。そう思ってこの番組をやっています。
ホーチミンのヘアサロンの様子(2023年撮影、Ryan Dinh / Shutterstock.com)

ホーチミンのヘアサロンの様子(2023年撮影、Ryan Dinh / Shutterstock.com)


朝吹:日本はもっと、自分のやりたいことができるオープンな社会であったらいいなと思います。まだ出る杭は打たれるというか、今の日本社会では若くても1度何かで失敗したらなかなか復帰できませんよね。そういう人でも社会復帰できるように周りが応援し見守る社会になればいいのに。

中道: 日本は失敗するとそれで終了ですが、失敗してもまだカムバックできる可能性がある国は世界にはたくさんありますからね。そういう新しい考えを入れたうえで取捨選択できるような広がりが日本にもできるといいですね。

朝吹:ニューヨークで一緒に住んでいたルームメイトが映画の脚本家だったんですけど、それだけでは食べられないのでシティバンクの事務員をしていました。彼はバーで「何をやっている?」と人から聞かれると、自分はスクリーンライターだと言っていました。自分は夢を実現できていると。

日本に帰ってきて一番異質に感じたのは、「何をやっている?」と聞くと、「僕は電通です」とか「都庁です」と言う。帰属意識でしょうか。日本人はもっとインディビジュアルとしてコミュニケーションを取れるようになるべきですね。

中道:自分自身よりも会社が自分を表現してくれるというのがどこかにあるのでしょうね。

朝吹:坂本龍一さんにお会いした時に「坂本さんは素晴らしいですね。最近は環境活動家でもありますよね」と言ったら、「いや、僕はいつでも職業は坂本龍一です」とおっしゃった。そんな風になれる人はわずかでしょう。だけど、自分もそんな風に個人で勝てる人でありたいと思いました。「職業は中道です」って、いいですよね。

文=久野照美 編集=鈴木奈央

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