ビジネス

2023.06.02 11:30

多額の損失を出したソフトバンクの今後、S&P格下げに猛反発

5月後半になって浮上したソフトバンクグループとS&Pのあつれきは、24年前の成功体験に端を発する問題を浮き彫りにするものだ。ここで思い起こすべきは、孫が2000年に踏み切った大胆な賭けだ。孫は、当時まだ無名だった、杭州在住の英語講師、ジャック・マーに投資するという判断を下した。孫がこの年、マーに渡した2000万ドルは、アリババが株式を上場した2014年には580億ドルにまで膨らんだ。

2017年に孫が立ち上げたビジョン・ファンドは、この奇跡のような成功の再現を目指したものだ。孫のチームはそれ以来、次の大きなテック系ユニコーン、すなわち「次なるアリババ」からの棚ぼた的利益を目ざして、何年にもわたって世界中を探し回ってきた。

だが「雷は同じ場所に二度落ちない」と言われるように、アリババのような掘り出し物が、同じ場所に2度登場することはめったにない。そして、ユニコーン企業を手なずけようとするなかで、未知数のスタートアップに過大な資金を注ぎ込みがちな孫の傾向は、結果的にテック系創業者のあり方を変えた。孫が提供する豊富な資金を得ようとする動きは、シリコンバレー版のリアリティ番組の様相を呈すようになった。

孫のビジョン・ファンドがベンチャーキャピタルの世界を一変させたこの顛末は、なかなかのストーリーだ。米国のシリコンバレーから、インドのバンガロール、韓国ソウルに至るまで、起業家にとって「チーム孫」とのミーティングは、業界に破壊的変革をもたらしたいとの野望を抱く起業家が、大金持ちになるか、一敗地にまみれるかを決める、運命の瞬間になる可能性を秘めている。

しかし、このストーリーの結末がどこに落ち着くかはまだ見えない。孫は努力はしているものの、WeWork問題が残した爪痕を完全に払拭するには至っていない。さらにS&Pは、ベンチャーキャピタル業界では以前から知られていた点を指摘しただけにもかかわらず、ソフトバンクグループが猛反発したことをみると、孫の側近からなるチームは、まだ重要な点を見過ごしているようだ。

ソフトバンクが格付け会社と揉めたのは、今回が初めてではない。孫のチームは2020年3月、ムーディーズが発行体格付けを「Ba1」から「Ba3」へと2段階引き下げたことを契機に、ムーディーズに対する格付け依頼を取り下げた。その後は、いわゆる「勝手格付け」の状態が続いている。

だが今後、どこかの時点で、孫の側近はそのオフィスに、より大きな鏡を持ち込もうとするかもしれない。もしそうなれば、ソフトバンクの「ビジョン」がいまだに不明瞭で、市場を安心させるに至っていないことを、孫自身も悟るかもしれない。

forbes.com 原文

翻訳=長谷 睦/ガリレオ

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