NASAが巨額をアポロ計画につぎ込んでサターンVロケットを製作してから半世紀以上が過ぎた今、人類にとっての宇宙の次章は、世界有数の大富豪2人の手に渡った。スペースX創業者でTwitter(ツイッター)トップのイーロン・マスクと、Amazon(アマゾン)とブルーオリジンの創業者、ジェフ・ベゾスだ。
アポロ計画からアルテミス計画へのミッション構造の変化は、過去数世代における米国社会の重要な変化を象徴している。第2次世界大戦で、欧州や他の地域での集団行動に成功した米国は、ソビエト連邦との宇宙競争で再び団結し、ソ連を追い抜いた。
だが、数百万人を死に至らしめた新型コロナウイルスのパンデミックでは、米国は傑出した集団行動を取ることができず、コミュニケーションや協力、リーダーシップの失敗により、多くの命が失われた。
こうした背景を考えると、米国がついに月を再び訪れ、恒久基地を建設して火星を目指す計画を立ち上げるこの歴史的岐路において、公的機関や集団行動ではなく富豪たちの力に頼るのは、驚くことではないかもしれない
もちろん、最近の社会問題と億万長者による宇宙開発を、単に直線的に結びつけることはできない。宇宙開発の民営化の動きは、アポロ計画の終わり頃からあった。米国が景気停滞とインフレに見舞われ、月でゴルフをするために国が大金をつぎ込むことにうんざりし始めていた頃だ。
人類の使命か、金持ちのプロジェクトか
それでも私は、宇宙探検の未来を切り開くこのプロジェクトが、集団としての想像力ではなく、テック富豪2人の手に委ねられたとみられることに、不快感を抱いている。マスクは、人類のためになることの実現を目指す先見者を自称している一方で、米証券取引委員会(SEC)や労働規則、米連邦航空局(FAA)がロケットの試験打ち上げに定めている認可の要件など、実際に公共の利益となるものを軽視する姿勢も見せている。一方、ベゾスの宇宙に対するビジョンは、金持ちや著名人を宇宙に送り込んで数分間の無重力状態を楽しませることから始まり、ゆくゆくは地球を守るためにできるだけ多くの重工業を地球外に移転させるという壮大な目標の実現を目指すものだ。長期的展望としては悪くないが、実業家が他の惑星へと事業を拡大しようという計画に懐疑的な視線が向くのは自然なことだ。