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家計簿アプリの「Dr.Wallet」(株式会社BearTail社)



スマホでレシートを撮影して送信するだけで、正確な家計簿が作成できる家計簿アプリ「Dr.Wallet」が人気だ。現在、100万人以上のユーザーに愛される「Dr.Wallet」の特徴は、全国に散らばるオペレーターらがレシートの内容を目視で確認し、手作業でデータ入力を行っている点。

家計簿アプリは各社からリリース中だが、その多くがOCR(自動文字認識技術)に頼っているため、認識精度は十分とは言えない。それに対し、入力オペレーターが手動でデータを入力する「Dr.Wallet」は「99%以上」の認識精度を誇る。
「手作業で入力することで競合のアプリと差別化を図り、地方の労働力をテレワークの形で活用することで、新しい雇用も生み出している」と語る、運営元の株式会社BearTail社CEOの黒崎賢一氏(23歳)に、アプリの開発背景を聞いた。

――「家計簿アプリ」というアイデアを思いついたきっかけは?

開発を始めたのは2013年の4月。当時はスマホの普及期でこれから人々のライフスタイルが劇的に変化するという実感がありました。当時、私は筑波大学の学生だったんですが、自分でもPCで家計簿をつけていて、手作業で入力するのは非常に面倒だと感じていました。それで、その手間を代行するサービスがあればヒットするんじゃないかと思ったのです。

――当初から「手動で入力する」という発想だったんですか?

はい。その頃、既に同様のアプリは各社からリリースされていましたが、OCRに頼るものは認識精度が低かった。最後のラストワンマイルの壁を超えるには、やはり手動入力が必須だと思いました。当時はクラウドワークスやランサーズなどのクラウドソーシングの仕組みが定着し始めた頃。ワーカーさんたちに仕事を依頼する仕組みを整えて、最初は10名ほどの入力部隊でサービスを立ち上げました。その2年ほど前だったら「Dr.Wallet」は誕生していなかったと思います。

――現在、入力作業を担当しているのはどんな方たちなんですか?

地方に住む子供を持つ主婦の方たちを中心に、約2000名のネットワークを構築しています。地方ではコンビニでレジ打ちの仕事をやろうとしても、通勤に車で数十分もかかったり、子供が居て目が離せないという家庭も多い。時間に縛られず、自分が作業をしたい時にいつでも仕事にかかれるので働きやすいという声も聞いています。昭和の時代ならば「内職」と呼ばれた仕事が、ネットの普及でこういう形に変化したと考えています。

ユーザーがレシートの写真を送るとワーカーさんが手入力をしてくれるという仕組み(Courtesy BearTail inc.)
ユーザーがレシートの写真を送るとワーカーさんが手入力をしてくれるという仕組み(Courtesy BearTail inc.)

現在は総務省の主導で「テレワークで地方のポテンシャルを引き出していこう」という流れも起きていますが、今はかつてのように一箇所のオフィスにみんなが集まって仕事をする必要が無くなりつつある時代。テレワークの仕組みで地方に仕事が無いという問題も解決していけるんじゃないかと思っています。
レシートは匿名性を保つため、分割されて別々のオペレーターによりデータ化される

――いわゆる「ネットのリテラシーが高い層」が働いている印象ですか?

いいえ。弊社のサービスの場合、ネットの接続環境とパソコンさえあれば「誰でも15分あれば仕事をスタートできる」ことをモットーとしています。入力画面は極力シンプルにして、パソコンの初心者でも簡単に理解できる仕組みです。コミュニケーションには主にチャットツールを用いています。

ワーカーさんの中には大手企業をリタイアした70代の方もいて、リーダーとして他のワーカーさんのサポートや勤怠管理、入力のクオリティチェックなどの仕事をお願いしたりもしています。高齢の方でも体に負担をかけずに働くことが可能で、「社会的に意義のある仕事をしたい」というモチベーションにも応えられる業務や労働環境を提供できていると思います。

――2013年12月には1億円の増資にも成功していますが、その背景は?

サービスの運営には当然、コストがかかりますが「Dr.Wallet」は無料アプリのため、短期間での収益化は難しい。しかし、競争環境がある中で多くのユーザーに価値を届けるためにはサービスの前進速度を上げなければならない。そんな思いをご理解いただける企業から出資を募りました。現在は大手飲料メーカーやお菓子メーカーなどのナショナルブランドの企業広告をアプリ内に掲載し、マネタイズを図っています。

――黒崎さんは現在23歳とのことですが、経歴を簡単にお聞かせください。

Dr.Wallet運営元の株式会社BearTail社CEOの黒崎賢一氏(23歳) 起業した当初は「買い物代行サービスの事業プランも練っていた」という
Dr.Wallet運営元の株式会社BearTail社CEOの黒崎賢一氏(23歳) 起業した当初は「買い物代行サービスの事業プランも練っていた」という

生まれたのは1991年。いわゆる「ゆとり世代」で小学校では円周率も「およそ3」と教えられました。中学3年の時に、親に隠れて貯めたお金でPSPを購入ました。当時のPSPは自作したアプリケーションが動作可能だったんですが、その方法を学ぶため海外のネットの掲示板で情報を漁り、プログラミングの知識も身につけました。その後、PSPの活用法をブログで発信していたところネット業界の方から声がかかり、高校生卒業後にはCNETなどのメディアでライター業をやるようになりました。筑波大学に入学後に知り合ったメンバーで、BearTail社を立ち上げました。

――これまでに「インターネットのパワーを実感した瞬間」を挙げるとしたら?

2011年の東日本大震災の発生当時、避難所に貼られた被災者名簿の画像を「手作業で入力してデータ化するプロジェクト」というのがグーグルの主導で行われました。そのプロジェクトにボランティアとして参加して、出来上がったデータを実際に被災者の家族の方たちに利用して頂いて、これこそがネットのパワーだと思いました。一人一人の小さな力を合わせることで、社会的に意義のある大きなプロジェクトに発展していく。今やっている「Dr.Wallet」の事業の原点にもそんな思いがあります。

――最後に、今後の夢をお聞かせください。

自動車メーカーのトヨタが豊田市を作ったように、将来的には「Dr.Wallet」というアプリがドクターウォレット市を作れたらいいなと思っています。近年は労働力の減少ということも盛んに言われますが、従来の雇用スタイルでは実現できなかった事業モデルを、テレワークなどの新しいワークスタイルで生み出していけると思います。弊社では総務や経理関係の仕事は極力アウトソースして、エンジニアたちが本来の業務に集中できるような環境も整えています。
その一方で「機械に任せられることはもう限界に達しつつあるんじゃないか」という思いもあります。アマゾンでもウーバーでも、結局のところバックエンドを支えるのは人間の手作業なんです。ネット時代の「新しい手作業」の可能性を追求していきたいと思っています。

取材・文=上田裕資

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