ソーシャルとビジネスの「二極化」はいらない
パネルディスカッションには、サンゴ礁などの海洋生態系の復元に取り組むスタートアップ「Archireef」共同創業者兼CEOのヴリコ・ユー、データを用いて物流のネット・ゼロを目指す「shipzero」共同創業者兼CEOのミルコ・シェドルバウアー、南アフリカ気候行動ネットワークでプロジェクト・オフィサーを務めるパト・ケレシツェと、バックグラウンドが異なる3人が登壇した。モデレーターはアムネスティ・インターナショナル国際委員会委員長のアンジュラ・ミーヤ・シン・ベイスだ。
彼らが社会変革のリーダーとして歩み出したきっかけはさまざまだが、共通するのは身近な「破壊」にひもづいていることだ。
香港で生まれ育ったユーは学生時代に行ったボランティアで、気候変動の影響でサンゴ礁がわずか2カ月で破壊されるのを目撃したことがいまにつながっているという。一方のシェドルバウアーは、創業のきっかけは16年に行われた米大統領選挙と、その後の気候変動対策などに対する米国の方針転換にあったと話す。
「サステナビリティを教えていた教授の何人かは、本当にショックを受けていました。規制の見直しによって、彼らのライフワークが崩壊していくのを目の当たりにした気がしました」
とはいえ、社会が直面している環境問題はあまりにも大きい。自らの非力を感じ、情熱を奪われたことはないのか。ユーは言う。
「科学者としての訓練を受けた私は正直なところ、以前は悲観的にとらえていました。なぜなら、数字を見れば、気候変動の緩和を可能にするために、いかに劇的な変化が必要なのかがわかるからです。しかし2年半前を機に、民間や市民社会から『行動を起こすべきだ』という大きな流れが生まれたと思います。その傾向が強まれば強まるほど、私は希望をもてるようになりました」
そして、このセッションでも話題に上ったのが、社会性とビジネスを統合することの重要性だ。
「私たちはこれ以上の二極化を必要としていません。誰が被害者なのか、誰が問題をつくっているのかなどと指弾することには意味はありません。建設的でいられる世界に移行していくことが重要だと思います。私たちは、全員が利益を得られるような未来のために、共に協力し合っているのです」(ユー)
このような世界の若い起業家たちに日々接している世界経済フォーラム日本代表の江田麻季子は「日本とグローバルでは、起業する人たちの熱量が圧倒的に違う」と指摘する。
「事業を起こすのは簡単なことではないし、いいことをしているだけではビジネスは成立しない。スピード感をもって取り組むには、折れずにやり続ける情熱が大切だ。
一方で、日本の起業家は(投資家などから)きゅうきゅうと細かいことを聞かれたりすることが多く、大人の枠組みのなかで成功しなくてはいけないという感覚をもっているように見える。『若者に頑張ってもらわなくては』との言葉をよく聞くが、若い人たちが情熱の火をともしやすい環境を整えるべきだと思う」