「どんな環境でも実現するのが創業者だ」
江田が指摘するように、「人や社会にとってよい」だけではビジネスにならない。市場に評価され、ステークホルダーに価値を認められてこそ事業は持続し、世界を動かす一翼になりうる。だが、地経学的な緊張やインフレなどの影響で世界経済の減速懸念が高まり、スタートアップを取り巻く現状は厳しい。果たして、ユニコーンを含めたスタートアップのCEOたちは、世界経済の情勢にどう立ち向かっているのか。
ダボス会議の最終日、答えを求めてセッション会場に足を運んだ。タイトルは「緊縮財政下でのスタートアップ」。
登壇者はソフトウェア企業「SingleStore」CEOのラジ・ヴェルマ、フィンテック企業「Airwallex」共同創業者兼CEOのジャック・チャン、ヘルステック企業「Calibrate」創業者兼CEOのイザベル・ケニヨン、そして「Sequoia Capital」パートナーのルチアナ・リキサンドゥ。
モデレーターはベンチャーキャピタルファンド「DCVC」の共同創業者でマネジング・パートナーのザカリー・ボーグだ。ユニコーンの経営者2人、わずか2年で1億2500万ドル以上を調達したスタートアップの経営者1人、投資のプロ2人という、市場のいまを語るにふさわしい人選である。
このセッションは、筆者が参加したどのセッションよりも白熱した。ヴェルマ率いるSingleStoreは22年10月に、1億4600万ドルのシリーズF2を完了したと発表。ヴェルマはこの3年間を振り返り、「私たちには戦略と実行計画があった。そしてむしろ基本に忠実だった」と話す。
「質の高い製品をつくる。このたった一つのことを実行すれば、どんなときも丸く収まる」
チャンが率いるAirwallexも、22年10月にシリーズE2で1億ドルを調達。同社の調達総額は9億ドルを超え、評価額は55億ドルを維持した。
起業家へのアドバイスとして、チャンは「自分のビジョンを信じてくれる人たちと貴重な時間を過ごし、キャッシュフローポジティブへの道筋を示し続けて、戦略的投資家への信頼を築き上げることが重要だと思います」と語った。
一方、投資のプロの見立てはどうか。リキサンドゥは「創業者には、マクロ的にも資金調達的にも困難な環境が長期化することに備えるようアドバイスしている」としながらも、「2、3年前の資金調達環境を利用したために資本が豊富で、本当に強い立場にある企業もある。このような状況下では、加速度的に成長し、強い立場にない競合他社を追い越すには絶好のタイミングと言える」と分析。
そのうえで、「創業者たちは、問題を解決することに執着し、そのために人生を捧げたいと思うからこそ会社を起こす。どんな環境でも実現してみせるのが、まさにミッションドリブンのファウンダーたちなのです」と断言した。
では、創業間もないベンチャー企業Calibrateのトップは、この数年の市場動向と経営課題をどうとらえたのか。ケニヨンの口から出たのは、チームマネジメントの大切さだった。
「自分たちがコントロールできるものは何か、コントロールできないものは何かを見極め、コントロールできないものをチームが本当に理解しているかどうかを確認すること。そして、それを軸に設計を進めていくことです」