では、理想のパートナーシップ実現には何が必要なのか。その問いを解くかぎとなるセッションは、ダボス会議3日目の昼過ぎに行われた。
パートナーの“痛み”を見定め、解決策を処方する
「コーポレート・インパクトを再構築するフロンティア・パートナーシップ」と銘打ったセッションの登壇者は、パキスタンに拠点を構えるベンチャー企業「doctHERs」の共同創業者兼エグゼクティブ・ディレクターのセービーン・ファティマ・ヘイクと、グレイストン社長兼CEOのジョセフ・ケナー、ユニリーバ南アジアサステナビリティ責任者のカニカ・パルの3人。いずれもソーシャル・イノベーション・アワードの受賞者である。最も印象に残ったのがヘイクのプレゼンテーションだ。冒頭、彼女は母の写真を映し出した。
「20年から22年にかけて、母は24時間365日体制で父の介護をしていました。その間に母が提供した無報酬の介護時間は1万6000時間に上ると推定されます。父の死から27日後の22年9月、母は倒れ、この世を去りました」
そう話すと、彼女は具体的な数字を掲げながら、世界が直面している医療の課題を説明し始めた。ヘイクによると、世界には基本的な医療を受けることができない人たちが約40億人いて、特に女性と女児は医療の手が届きにくい。この医療ギャップを埋めるには、30年までに1800万人の医療従事者が追加で必要だ。女性による世界のヘルスケア産業への貢献は推定3兆ドルに上るが、その半分は無報酬の仕事だという。
「つまり、私たちのヘルスケアシステムは、見えざるケアワーカーや、私の母のような無給の労働者に頼っているのです」
このギャップを解消するために15年に起業し、立ち上げたのがヘルスケアのプラットフォーム「doctHERs」だ。デジタル技術を用いて女性医療従事者と患者をつなぎ、女性の社会復帰を支援し、医療へのアクセスから疎外されたコミュニティに力を与える。「過去5年間で、350万人以上の人々の生活にインパクトをもたらした」とヘイクは言う。
インパクトを出すことができた理由として、彼女は企業提携のアプローチを紹介した。
たとえば、トミーヒルフィガーなどと共に実施している工場勤務の女性労働者へのサービス提供だ。
日給で働く彼女たちにとって、仕事を休んで病院に行くことは収入減を意味する。doctHERsは企業と協力し、工場の敷地内に「スマート・クリニック」を設置。職場で医療にアクセスできるようにした。結果、「離職率が下がり、欠勤が減り、生産性が高く幸せな労働者に工場はとても喜んでいる」(ヘイク)という。
コラボレーションする相手がどこに“痛み”を抱えているのかを的確に見定め、ソリューションを提供する。体系的なレンズを駆使してさまざまなステークホルダーに利益をもたらし、より大きなインパクトの創出につなげる。ダボスで見たのは、世界の起業家たちの圧倒的な熱量だった。
なにが彼らを本気にさせるのか。そして、社会課題解決への熱量とビジネスマインドを併せもつ人たちを、官民や社会はどう後押しできるのか。
さらなる問いへの解を求めて開催4日目、「地球の未来を担う若者たち」のセッションを覗いた。