ウルトラマリンのスパークリング・ワインは、成熟度が高い、明るく透明感のある果実といったカリフォルニアらしさに加えて、森の下草や旨みによる深みがある。そして筋の通った骨格があり、長期熟成の可能性を感じるワインだ。
今回試飲した各ボトルには、彼の醸造家としてのこれまでの歩みが刻まれていた。ヴィンテージごと、畑ごとに特徴が出ていて、どれも個性を放っていたが、試行錯誤しながら、より良いものに改善していく醸造家としての進化が表れていた。
ウルトラマリンはカリフォルニアのスパークリング・ワインの中でも、多くの人が探し求めるワインになったが、マイケルは、自分のワインが特別な人たちだけが楽しむものになることを望んでいないし、皆に楽しんでもらえる、手が届くものにしたいと考えているように感じる。
クルーズ・ワイン・カンパニーでは、本格的だがアプローチしやすい「Tradition」というスパークリング・ワインや、カジュアルなテーブル・ワインやペット・ナットというスパークリング・ワインも造っている。これらは比較的見つけやすいので、マイケル・クルーズのワインを楽しみたい人は、まずはこちらを試してみてほしい。
様々なスタイルのワイン造りに携わるマイケルだが、こうも言う。「ブドウが育つ場所によって、また、ブドウの個性によって、作り方を変える。他のワインを作るときに、ウルトラマリンと同じことをしていたら上手くいかなかったんだ」
「ウルトラマリン」というブランド名について尋ねると、「ウルトラマリンの色は色彩として創り出すのが難しいと言われている。これにちなみ、難しいワイン作りに挑戦したかったから」とマイケル。
言葉の端々に、チャレンジ精神がうかがえるが、今後の目標について聞いたところ、「カリフォルニアでは、畑を表現したスパークリング・ワインはまだ始まったばかり。今後、その土地の味わいを表したワインを造るためのテクニックの”ツール・ボックス”を蓄積したい。これは、カリフォルニアで、より広い範囲で異なる畑からのワインを実験的に試すことにもなる」という答えだった。
マイケル・クルーズは、会うたびにこれまでとは違うことに取り組んでいて、何か新しいことを教えてくれる醸造家だ。今後どのようなことを成し遂げて行くのか、そして私たちにどんなワインを届けてくれるのか期待したい。
島 悠里の「ブドウ一粒に込められた思い~グローバル・ワイン講座」
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