サリバン氏は過去の経済外交の概念を捨てるべきだと主張した。彼に言わせれば、過去は経済効率重視で、「一番コストがかからないサプライチェーン」を目指していた。ところが、今や世界は地政学的リスクや気候変動、米国の労働者などを考慮に入れたサプライチェーンを作らなければいけないという。
要するに、「中国と手を切れ」と言っているのだ。サリバン氏は「同盟国と連携する」と言ったが、それは「同盟国にこの方針を強制する」と言っているに等しい。同時に、中長期的には米国内に投資して、競争力をつけなければいけない、という考えも示した。当然と言えば当然だが、「米国ファースト」を主張したわけだ。
ここですぐ脳裏に浮かんだのが、前日行われた米韓首脳会談だ。韓国は今回、経済分野で是が非でも勝ち取らなければいけない対米要求がいくつかあった。「韓国大丈夫か 米韓首脳会談・ワシントン宣言は韓国版プラザ合意か」で書いたように、「IRA(インフレ抑制法=Inflation Reduction Act)」、と「CHIPS(半導体関連法=CHIPS and Science Act)」の、韓国企業への例外扱いが焦点だった。特に、CHIPSは、中国との最先端半導体競争に勝利するため米国産業の育成などを目指す。
最先端半導体メーカーとしてTSMC(台湾)と世界的競争を繰り広げている韓国のサムスン電子は中国に半導体工場を持つ。共同声明ではサムスンなどへの例外扱いは盛り込まれず、逆に「次世代核心・新興技術対話」の設立によるハイテク技術協力の促進で合意した。サムスンはこれ以上、中国工場に投資できなくなり、やがて中国市場から退場しなければいけなくなるだろう。
米韓の経済関係筋は「米国はIRAを使ってサムスンに補助金を支給する代わり、サムスンの企業情報や人材を吸い取って、(米半導体メーカー大手の)インテルを育てるつもりなのかもしれない」と語る。
サリバン氏は昨年9月の講演では「中国を、できる限り引き離す」と宣言した。バイデン政権は昨年10月に発表した国家安全保障戦略(NSS)で「決定的な今後10年間」という表現を使った。中国を振り落とすためには、何でもやるという強い覚悟が見える。韓国・尹錫悦政権の外交ブレーンは首脳会談前、「サムスンの例外扱いは難しくても、今後の韓中貿易に一定の理解を得られる機会にしたい」と語っていたが、とてもじゃないが、そんな甘い考えは通用しそうもない。