経済・社会

2023.05.02 11:45

バイデン政権が日韓に迫る「対中デリスキング」とは

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サリバン氏は4月27日の講演で、この政策は「デカップリング(切り離し)」ではなく「デリスキング(リスクの回避)」だと語った。米国がサプライチェーンの強靭化を図ることをデリスキングと称した。最先端の半導体など機微技術・製品だけを中国に渡さず、安全保障と関係ないものは、どんどん自由に貿易・投資してもらって構わないという。

この講演を視聴した米州住友商事会社の渡辺亮司ワシントン事務所調査部長は「そんなに簡単には物事は進まないでしょう」と語る。バイデン政権は表現を「デカップリング」から「デリスキング」に変えたが、実質、機微技術を中心に中国とのデカップリングが進展する。渡辺氏の目からも、米国は軍事分野以外でも、どんどん安全保障の鎧をまとい始めている。

例えば、数年前、米国の在外公館に建材を納入している海外子会社を中国企業に売却しようとした日本企業があった。ところが、これが対米外国投資委員会(CFIUS)の審査に引っかかった。「この企業は、米国の在外公館の構造などを把握していることが米国の安全保障上リスクとみられた可能性が高い」ということだった。米国の輸出規制は半導体に限らず、バイオ技術やAI(人工知能)をはじめ他の分野にも今後拡大し、対中投資規制も近々、導入されることが予想されている。

また、日本企業には総合商社のように、農産物も扱えばハイテク製品を扱う企業もたくさんある。渡辺氏は「例えば、機微技術を扱うハイテク分野や米政府職員の個人情報に関わるような対米投資を行う場合、企業のなかに、高い壁を作って、中国部門に情報が流れない仕組みが必要かもしれません。そのような投資案件では企業はCFIUSの審査にひっかからないか、米政府に確認するなど、事前に根回しすることも重要になります。投資後、米政府の審査で却下されれば、強制的に売却させられるなど事業計画が狂いかねません」と話す。

また、韓国の大学教授が昨年9月、ワシントンの専門機関に一時留学を申し入れた。ところが、ビザがなかなか降りなかった。調べてみると、ソウルの米国大使館の領事関係者が、本国の厳しい姿勢をみて緊張し、発給業務が滞っていたことがわかった。結局、この教授は今年3月になって、ようやく米国への入国が実現したという。

今、日本や韓国の政府当局者は、ワシントンや東京、ソウルでバイデン政権の動きを追いかけるのに必死になっている。その流れをつかむや、慌てて国内法や制度の整備に取り掛かっている。日本や韓国の政治部・経済部記者が「特ダネ」として、その新しい日本の制度を報じるころには、バイデン政権は規制の実績を十分積み上げるところまで進んでいるという。

企業関係者はワシントンで直接、アンテナを立てないと生きていけない時代に突入している。

文=牧野愛博

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