UBSがクレディ・スイスを飲み込んでいくのにともなって、スイスの銀行業界は再編成されていくだろう。その過程では、スイスの中堅銀行の多くが恩恵を受けそうだ。UBSとクレディ・スイスの間には顧客の重複があるので、クレディ・スイスの資産がUBSの口座にそのまま移ることはないとみられる。複数の銀行と取引している富裕層の顧客の多くは、ほかのプライベートバンク、スイスならたとえばジュリアス・ベアなどに、アジアなど他の地域なら米国勢や地場系に目を向けるのではないか。
業界再編の機運
UBSとクレディ・スイスは事業が重複することからともに本社を置くチューリヒの労働市場にも試練が訪れている。ただ、EFG銀行が先週、顧客関係の管理職を新たに50人採用すると発表するなど、雇用ショックは吸収できる兆しも出ている。ウェルスマネジメント(富裕層向け資産管理ビジネス)を手がける中堅銀行のシェア拡大が趨勢になりつつあるとすれば、資産管理分野の業界再編もさらに進むかもしれない。業績や株価の落ち込みが激しいGAMは買収される公算が大きそうだし、クレディ・スイスのアセットマネジメント部門にも複数の買い手候補がいるとみられる。全体として、スイスのウェルスマネジメント各社はプライベートアセットファンドに今後ますます注力することになると思われる。
UBSによるクレディ・スイス買収の影響をめぐっては、考慮すべき点がほかに少なくとも3つある。まず、スイスという国、とくにスイスの標榜する「金融国」の評判に傷がついてしまったという問題である。
クレディ・スイス危機をめぐるスイス政府のこれまでの対応はお世辞にも模範的とは言えず、信用を落とした。今後、チューリヒやジュネーブがほかの金融センターとの間でますます激しい競争にさらされるとみられるなか、スイスへの資金流入が減っても不思議ではない。
これに関連して、スイスの銀行システムにおけるロシアマネーという問題も未解決のままだ。
「クリプトバレー」も正念場
さらに、欧州の「クリプトバレー」(暗号資産企業の集積地)としてのスイスの地位も試されている。スイスに拠点を置く主要プレイヤーの多くは最近の業況悪化で苦境にあり、当局による監視も強まっている。まとめよう。UBSによるクレディ・スイス買収をきかっけに、ばらばらながら強力なスイス銀行業界は創造的破壊の時代に入っている。ウェルスマネジメントを手がける中堅銀行がその恩恵にあずかる公算が大きい。労働市場も大きな変動に見舞われるとみられるほか、アセットマネジメント分野では、新たな、よりハイエンドの商品が求められるようになると予想される。
(forbes.com 原文)