北米

2023.03.31

資産膨張920兆円のツケ、「日本型危機」に見舞われるチャールズ・シュワブ

チャールズ・シュワブは低金利政策のもと膨張させたバランスシートでで含み損が拡大している(AaronP/Bauer-Griffin/GC Images)

チャールズ・シュワブが悪い意味でニュースになっている理由を知りたい投資家は、その手かがりを日本に見いだせるかもしれない。

確かに、金融界は米連邦準備制度理事会(FRB)が進める1990年代半ば以降で最も積極的な金融引き締めに揺さぶられているところだから、シュワブと事業全体で7兆ドル(約920兆円)を超えるその資産が脅威にさらされているように思える理由も、一見すぐわかりそうではある。

だが、真の手がかりは日本に求められるのではないか。というのも、金融環境の変化に対してシュワブに勝るとも劣らないほど強い拒絶反応を示してきたのが、ほかならぬ日本だからだ。

FRBの利上げが米国でシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行の相次ぐ経営破綻を招くにいたった経緯には、アジア諸国も神経をとがらせている。次は行き詰まるのはシュワブではないか──。日本の国内総生産(GDP)をしのぐ資産規模をもつ同社の行く末への懸念は、グローバルな資本主義体制が急速に崩れかかっているという疑心暗鬼も強めている。

SVBと同じように、シュワブは2020年から2021年にかけて期間が長めで利回りのごく低い債券を大量に積み上げた。昨年、FRBが利上げペースを加速させると、短期間のうちに巨額の含み損を抱えることになった。ブルームバーグによるとその額は2022年3月時点で50億ドル(約6600億円)超、同年末には130億ドル(約1兆7000億円)超に膨れ上がった。

ここで浮かび上がってくるのが「日本からの教訓」という視点だ。約10日後、日本銀行の総裁に植田和男が就任する。彼を待ち構えているのはとてつもない難題である。経済を落ち込ませずに金融政策を正常化するという仕事だ。

日銀が20年あまりにわたって続けてきた量的緩和(QE)政策をいよいよ転換するのではないかという懸念は、アジア2位の規模をもつ日本経済のストレステストになるだろう。日銀が2001年に世界に先駆けてQEを導入してから、円の潤沢な流動性は日本の金融DNAの一部になっているためだ。

日本では日銀による本物の利上げどころか、量的緩和を段階的に縮小するテーパリングでさえ、政界や企業界をおびえさせてきた。昨年12月20日、日銀の黒田東彦総裁が、日銀がほんの少し緩和政策を引き締めるとどうなるか、世界の許容度を試してみたときもそうだった。

実際、それはうまくいかなかった。黒田総裁が長期金利の変動許容幅を従来の0.25%から0.5%へとごくわずかに広げただけで、世界のマーケットはパニックに陥った。円は急騰し、米国債利回りも急上昇した。低金利の円を調達して高金利国の資産を買う「円キャリー取引」は目算が狂った。

日銀が量的緩和を始めてから、日本は世界最大の債権国の座を固めた。円キャリー取引は世界の投資家にとって資金調達戦略の柱となり、安く借り入れられた円は外貨に換えられてインドやポーランド、ブラジルなど世界各地の高利回りの市場に流れ込んでいる。

だから、円が乱高下するたびに世界のマーケットは動揺する。12月20日もしかり。黒田総裁のチームはあと戻りを余儀なくされ、日銀は続く数週間、政策は変わっていないというシグナルを市場に送るために、国債を追加で購入するはめになった。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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