もちろん、日銀が現状変更に動く可能性はなきにしもあらずだろう。だが、植田新総裁が再び市場を試そうとするとはとても思えない。黒田総裁の試みのあと、SVBやクレディ・スイスをめぐって混乱が起き、さらにシュワブをめぐる疑念も持ち上がってきた。これらを鑑みるに、日銀の量的緩和時代はさらに長引く公算が大きそうだ。
なぜなら、日本は日銀のフリーマネーに依存しきってしまっているからだ。事実、2006年、あるいは昨年12月の例でもよいが、日銀当局による量的緩和縮小の試みは毎回、さまざまなマーケットを動揺させる結果になった。
ひるがえってシュワブの苦境は、米国も米国で「しっぽ(金融経済)が犬(実体経済)を振り回す」ような状態にあることをうかがわせる。シュワブはその規模から米国の金融システムにとって非常に重要な位置を占める。シュワブは3400万件の口座を擁するが、預金額が米連邦預金保険公社(FDIC)の保険対象額である25万ドル(約3300万円)を超えているのは20%に満たない。SVBの場合はその割合が約90%にのぼっていた。
いずれにせよ、シュワブの困難からは、投資家が気づいている以上に、米国もまた日本のような低金利依存症に悩まされているらしいことが見えてくる。
そこでFRBのジェローム・パウエル議長の出番となる。いまのところ、パウエルは利上げを継続する構えを見せている。インフレ率がなお6%と高い水準にあることから、パウエルのチームは現行の金融引き締めサイクルはまだ終わっていないとみているようだ。
米国の金融システムははたしてFRBによるさらなる引き締めに耐えられるのか。それは現時点では不明だ。日銀に続いてFRBが量的緩和沼にはまり込んだあと、銀行家たちは、金利は上がることもあるという点を忘れてしまったようだった。そして、金利が上昇した場合に備えてヘッジしておく方法も。
FRBの利上げによる「巻き添え被害」のリスクは日増しに高まっている。そのためパウエルのチームは、利上げの停止、さらには利下げにまで追い込まれる可能性もある。
加えて言えば、インフレ対策にあたるチームとしてはFRBはうってつけでなくなっている点も押さえておく必要がある。現在のインフレは主に、原油価格の高騰と供給側の混乱によってもたらされているからだ。こうした物価高騰への対策としては、生産性を向上させる技術への投資を拡大していくほうが上策だろう。
パウエルのチームはこの間、巻き添え被害はおかまいなしに利上げを進める覚悟だったようだ。ただ、これまで日本が何度も世界に示してきたように、低金利に溺れた金融機関がその影響を耐え抜くのは苦しい闘いになるに違いない。
(forbes.com 原文)