地に落ちた「ウズベクのプリンセス」 汚職資金2千億円の行方は

グリナラ・カリモワ(Getty Images)

「グーグーシャ」ことグリナラ・カリモワにとって、この1年はかなり長いものに感じられていただろう。だが、これまでの10年は、さらに長いものだった。

カリモワが現在収監されている女子刑務所のあるウズベキスタンの首都タシケントは、彼女がかつて、同国大統領の令嬢として闊歩(かっぽ)していた街だ。ポップスターだったカリモワは、自身のジュエリーブランドを運営し、大金持ちのライフスタイルを謳歌(おうか)していた。だが問題は、手にしていたカネの大半が、横領で得たものか、賄賂として贈られたものだったことだ。

グリナラ・カリモワの名前を聞いたことがない、あるいは、2000年代半ばの彼女の全盛期を知らないという読者のために説明すると、彼女はウズベキスタンのパリス・ヒルトン的な存在だった。派手なイメージとはあまり縁がないウズベキスタンという国でひときわ目を引く女性セレブで、父親のイスラム・カリモフは当時、この国の大統領だった。

だが、パリス・ヒルトンとの類似点はせいぜいそのくらいだ。父親のカリモフは2016年に亡くなったが、その前の2014年に、カリモワを自宅軟禁にした。これは、彼女の公金横領が目に余り、処罰せざるを得なかったからだ。

カリモワは米捜査当局の目にもとまった。米当局は、連邦海外腐敗行為防止法も違反したとして、カリモワを起訴。米移民・関税執行局(ICE)によると、複数の通信会社が絡んだ贈収賄の額は8億6500万ドル(約1160億円)に上ったとされる。この贈賄に関わった企業の一つ、ロシアのモバイル・テレシステムズ(Mobile Telesystems)は、2022年までニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場していた。カリモワは、金融犯罪からの収入により、保有資産額が10億ドル(約1300億円)に迫っていたという。

カリモワは2019年3月、自宅軟禁措置に違反したとして刑務所に収監された。それから現在に至るまでの4年間、彼女はタシケントにある刑務所に収容されている。現時点で、刑期の残りはあと10年ほどだ。

かつては、ウズベキスタンで「プリンセス」と呼ばれることも多かったカリモワだが、最近、この忘れられたプリンセスが刑務所生活から抜け出せる可能性が出てきた。
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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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