水素革命は倉庫の中から始まる
もちろん、水素にも課題はある。水と再生可能エネルギーから製造されるものであろうと、メタンから製造されるものであろうと、本質的に非効率であり、製造や圧縮、液化、超低温保存といったプロセスに、同じ電力を単に電池を製造するのに使う場合よりも多くのエネルギーを要する点である。グリーン水素の擁護派は、米国の中西部や南西部では、大規模な太陽光発電所や風力発電所によって、ピーク時に送電網が処理しきれないほどの余剰電力が生産されている点を指摘する。しかも、ソーラーパネルやタービンのコストが下がるにつれて、さらに多くの電力が供給されるようになる。つまり、需要を上回るグリーン・エネルギーが存在することが、グリーン水素の非効率性の問題を相殺するというのが彼らの主張だ。
だが、「Hydrogen Science Coalition(水素科学連合)」の一員である、カナダの化学工学コンサルタントのポール・マーティンは、「低効率なアプローチが役立つのは、コストが低い場合だけ」と、反対する。
「グリーン水素はコストが高く、効率が低いため、かえって高価なものになってしまうのです」
それでもマーシュは、テキサス、ルイジアナ、ウェストバージニアの各州で、グリーン水素を支持する声があると主張する。
これらの地域でプラグパワーが建設中の水素精製プラントは、「まるで石油やガスのプラントのようなもの」と、ここ1年、政府に働きかけを続けているマーシュは話す。水素精製プラントでは、液化した水素をトラックや列車で出荷するためのドライバーやサポートスタッフが必要になるが、「そこで働く人々の約20%が石油・ガス業界の出身者だ」と、彼は言う。
まだ初期段階にあるグリーン水素分野には多くの競合企業が存在する。
米エンジンメーカー大手のカミンズは、独自の電気分解装置ビジネスを構築しようとしている。クリーンエネルギー大手のネクステラも参入している。自社のEVトラックの燃料となるグリーン水素の製造容量を拡大しようと目論む、ニコラのようなEVスタートアップも存在する。1990年代から水素燃料電池技術を開発してきたゼネラルモーターズも、ノルウェーの電気分解装置メーカー大手ネルとの提携でコストの削減方法を模索し、この分野のプレイヤーになろうとしている。