今じゃなかったらいつやるの? 赤字覚悟の一大アート事業の狙い

さてはオカルトだな? と訝しく思いながら、「不老不死になること、世界を一つにすることの何がいいのか」と正直に聞いてみたところ、返ってきた答えが「I found it beautiful(僕はそれが美しいと気づいたんだ)」だったんです。その言葉があまりにも衝撃的で。

つまり、金銭的価値観に縛られて苦悩していた僕に、まったく別の価値観も存在するということ、そして人に「I founded it beautiful」を感じさせ、僕と同じようにしがらみから解放させることに大きな意義があると気づかせてくれたんです。アートの可能性を感じましたね。その場で「アートギャラリーをやります」と宣言して、そこから1年たたずにPARCELを立ち上げました(笑)。

深井:アートへの関わり方も様々だと思いますが、なぜアートギャラリーだったんですか?

武田:当時、アートで何かするといったらギャラリーくらいしか思いつかなかったということと、全面改装中だった自社の「DDD HOTEL」にちょうどギャラリー向きの良いスペースがあったことが理由です。構想段階で、ディレクターの佐藤拓が持ってきてくれたビジネスケースは相当リスキーなものでしたが、腹を括りましたね(笑)。

コンテンツには一切口を出さない

深井:アートは比較的嗜好性が強いジャンルなので、そこに関わろうとする人って、例えば自分の好きなアーティストを押し出したかったり、自分自身がプレイヤーになりたがったりする傾向にあると思います。PARCELで取り扱うアーティストのセレクションに、武田さんご自身はコミットするのでしょうか?

武田:全然。これはアートフェア「EASTEAST_」も、運営しているレストランやクリエイティブ関連の事業も同様なのですが、僕は自分の審美眼には自信がないので、コンテンツに口を出すことはないです。僕の役割はファウンダー/オーナーであり、僕のプライドと、コンテンツを動かす彼らのプライドは違うところにあるべきです。そこで対立したら一緒にはできませんしね。

2020 “Ba de ya" Osamu MORI at PARCEL, Tokyo

2020 “Ba de ya" Osamu MORI at PARCEL, Tokyo


深井:なるほど。経営者になるべく生まれて、それをある意味、全うし続けているんですね。実は日本のアート産業って、まだまだこの世界で純粋培養で育ったアートプレイヤーがほとんどなんです。

海外だと、例えば最大手オークションファームのサザビーズは、ここ10年くらいの間で積極的に業界外からの人選をするようになり、彼らの持つ独自のネットワークを引き入れて、オークションビジネスを進化させている。世代やジェンダー、人種の多様性はもちろん、他業種・他分野からの”門外漢”が参入しやすい流れができてきています。

現代アートそのものを見ても、「Art for art’s sake(芸術のための芸術)」の精神を引き継いで純粋さを求めていた時代もあったのですが、今は逆で、アート自体が様々な拡張性と可能性を持ち得るようにシフトしている。そのなかでプレイヤーが変わらなかったら、多様性を持てるわけがない。だから武田さんみたいな思考の人がまだまだ必要ですし、そのフォロワーがもっと出てくるとおもしろくなると思います。
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インタビュー=深井厚志 文=菊地七海 撮影=杉能信介 編集=鈴木奈央

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