AIがビジネスの基盤に入り込む時代に、同時にさまざまなリスクも指摘されるようになった。AI技術とソフトウェアでサービスを提供するPKSHA Technologyがその一例を示す。
2021年の被害額は約330億円(日本クレジット協会22年9月発表)。深刻な社会課題となっているクレジットカードの不正利用。その対抗策としていま注目されているのが、AIを用いた不正検知のシステムだ。
カード会社では通常、過去のケースに基づいて不正利用をスコアリングして分析、判断している。しかし、「新たな手口とのいたちごっことなっていて、分析担当者の負担は増す一方」だと指摘するのは、AIアルゴリズムの開発で注目を集めるPKSHATechnology代表取締役の上野山勝也だ。
いたちごっこのサイクルは短く、被害拡大のスピードは速い。「あるカード加盟店で被害が起きて、カード会社がそれに気づいたときには、もう別の加盟店に被害が及んでいる」。防ぐには、これまで人の手で行ってきた不正のパターンを見つけるオペレーションを、AIを用いて自動化することが必要不可欠となっている。
同社が提供する不正・犯罪検知のソリューション「PKSHA Securi ty」では、AIが新たな手口を高サイクルで学習し続けることで、高い精度での不正検知を実現する。すでに大手カード会社の半数近くが導入するほか、知見を集約したソリューションを、保険の不正請求やマネーロンダリングにも応用。損保などの保険会社や金融機関での導入も進む。
直近には、カード会社向けにスコアリングのためのシステムを提供する、インテリジェント ウェイブと提携。最新の手口情報をカード会社を超えてシェアすることで、不正を防止するサービスの共同開発にも取り組んでいる。23年6月からの本格稼働を目指している。
「大手カード会社には多くの情報の蓄積があり、費用をかけてシステムを開発することもできるが、中小規模のカード会社ではそうした負担が難しいところも多い。情報をシェアすることでコストを下げつつ、業界全体として不正を減らしていくのが狙い」だ。今後はさらに、QRコード決済など「急速に広がる新しい決済手段の分野にも、サービスを広げていきたい」という。
上野山は今後しばらくは、「AIが進化する一方で、AIのアルゴリズムと人間との接点となる部分が未成熟な時代が続く」と予測する。
不正検知では、AIが検知して人間がそれをチェックするという、AIと人間の滑らかな関係ができつつあるが、他の分野でも同様に「人間が得意なことは人間、ソフトウェアが得意なことはソフトウェアという、役割分担を再定義していく必要がある」と話す。
「高度なトランザクションのパターン認識は人間が不得意で、AIには得意分野。今後は不正や異常の検知だけでなく、多様なデータを活用したクレジットの与信なども、AIが担うようになっていく」と見ている。
うえのやま・かつや◎1982年、大阪生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。2012年にApp Re Search(現PKSHA Technology)を設立。東京大学松尾研究室にて博士号(機械学習)取得。17年に東証マザーズに上場。