ホーキングとハートッホによる仕事の要点の1つは、ハートッホによると、私たちの理論付けは「宇宙の中における私たちの存在を説明する」べきであるという。加えて「宇宙を過去へと辿る」ことによって「物理の進化の法則と原理が、それが支配する宇宙とともに共進化するような環境」を発見することが可能になると彼は断言している。
それでもなお、1981年にホーキングは、境界がなく、始まりもないかもしれない宇宙を提案した。そして、彼はそこからは少し身を引いたものの、マルチバースの考えを全面的に受け入れることはなかった。しかし彼は、宇宙論学者がインフレーションと呼ぶ急速な膨張を、宇宙が経験したことは受け入れていた。ビッグバン後に起きた、時空の指数関数的な膨張だ。そして現在に至るまで、ビッグバンの1兆分の1秒後に起きたこの大規模な膨張を何が起こしたのかは、最大の難問のままだ。
ホーキングの死から5年、まだ答えは出ていない。しかし、今後10年のうちに、地上拠点の重力波天文学者が、膨張から発せられた重力放射を検出することが期待されている。それによって宇宙物理学者には、ビッグバン宇宙論への新たな窓が開かれるだろう。
書籍について
『On the Origin of Time』は決して軽い読み物ではない。しかし、宇宙の起源に関する最新の考えに関する包括的見解を与えてくれる。つまるところこの本は、私たちが不変な物理法則の副産物であるのかどうか、また、私たちを縛っている物理の原理が宇宙とともに共進化したのかどうかという議論を再燃させるものだ。これは、立食パーティーでどのカナッペにしようかという類の問題ではない。
しかしそんな難問こそ、理論物理学が重要であり続ける理由だ。私たちが故郷と呼ぶこの宇宙の起源や、どうやってここへ来たかということ以上に哲学的に重要なことなどほかにあるだろうか。
(forbes.com 原文)