ユニクロ柳井正の仕事論──ビジネスは「向き不向き」ではない

Getty Images

いまでこそ「パーパス経営」といった言葉がキーワードになり、企業理念や会社のビジョンの大切さは当たり前のように語られる時代になっていますが、20年前の状況はどうだったか。しかし、柳井さんはそれを当たり前として経営を推し進めていたのです。
 
「小売りの世界は、以前は生産者の時代でした。ちょっと前までは店頭で販売している人の時代で、いまは買う人の時代になっている。かつては業者が『うちは販売だ』『うちはモノをつくる』『うちは物流』と勝手に決めていたわけですが、本当に買う人の立場に立って責任を持って商売しようと思ったら、企画から生産、物流、販売まで、一貫して手がけるのが自然なわけです」
 
SPA(製造小売業)というビジネスモデルも一般的になっていますが、実はこのビジネスモデルを取り入れたからといって、すべての会社がうまくいったわけではありません。大事なことは柳井さんの言う「買う人の時代」「本当に買う人の立場に立って」というところにあるのだと思います。
 
「買う人とモノをつくっている人のインターフェースに立って、そのすべてをコントロールできることは、企業として理想的でしょう。リスクは100パーセント自分たちにあるけれど、リターンも100パーセントある。これも商売の原点です」
 
大きなリターンを次への投資にあて、ユニクロはどんどん拡大していきます。そしてそれを支えたのが、優秀な人材たちでした。人材観についても、すでに柳井さんはこんなことを語っていました。
 
「もうひとつ重要なことは、個人個人の仕事がきちんと実行されていることです。私は、これからは個人の能力が企業を左右する時代だと思っているんです。いままでは社会や組織の時代だった。でも、今後は人、特に知的労働者の時代になる。判断したり計画したり実行したりという、自己完結型の人がカギを握る時代になる」
 
組織から個人の能力へ。こうした人材観が優れた人材を惹きつけてきたことは想像に難くありません。こうしてユニクロは、さらに成長軌道に乗っていくのです。
 
そしてこのときのインタビューで、私が最も印象に残ったのが、次のような話でした。ユニクロは急成長企業でしたので「なぜ会社は成長するべきなのか」と質問してみたのです。柳井さんはこう答えました。
 
「私は、会社は成長し、収益をあげ続けないとダメだと思っているんです。なぜなら働く人にとって、成長しない会社は自己実現の場を与えられないからです」
次ページ > 「私はもともと商売には向いていない性格」

文=上阪徹

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事