金融システム不安で、世界の中央銀行は、金融政策の変更を余儀なくされる可能性がある。今後の見通しと注意点をまとめる。
流動性危機は、SNS時代にいつでも起こり得る
金融システムが壊れそうになり、世界全体が疑心暗鬼になっているのは、実体経済に影響が出そうになったためだ。本来、危機というものは実体経済の主体である企業経営が悪化し、その企業にお金を貸している銀行が影響を受けて破綻するのが一般的な流れ。しかし、今回のSVBの破綻は、銀行側が不安定になったことで、底堅い米国経済に影を落としている。銀行発の信用不安が実体経済に悪影響を及ぼす珍しいケースだ。
これは、銀行の存在そのものを信頼できなくなることで起きた「ニュータイプの流動性危機」で、リーマン・ショックなどでは見られなかった。
では、このニュータイプの危機はなぜ起こったのか。その背景には「SNSの普及」がある。SVB破綻前、SNS上で銀行前の長蛇の列を見て「自分の預金は大丈夫か」と更に不安に火をつけた。今回のように、SNSによる不安の拡散で、銀行神話は簡単に崩れてしまう。しかもそれは、最初は少ない人数間での拡大であったとしても、問題を大きく誇張させてしまう傾向がある。こういった問題を我々は意識しておく必要がありそうだ。
仮にSVB同様の事態が起きた場合は、慌てて預金の引き出しに走るなどの行動に移らないことだ。分かりやすい事例では、コロナでマスクや、石油危機でトイレットペーパーの在庫バランスが崩れたのと似ている。
SVBに関しては、政府が預金を全額保護することに決まり、一旦、落ち着いた。保護には国費ではなく連邦預金保険公社(FDIC)の預金保険基金が充てられるとしている。しかし、全てを政府側で賄い切れなくなった際には、国民の税金でスタートアップ企業を助けることになる。そうなれば、バイデン大統領が来年に控える大統領選挙で賛否含めた追求が行われるだろう。
クレディ・スイス経営難も、ユーロは0.5%利上げ
一方、欧州では、業績が低迷している大手金融グループ、クレディ・スイスの経営難で揺れている。同社は世界トップ30に入る重要な銀行だ。クレディ・スイスの業績不振はいまに始まったことではない。加えて、SVBのケースとは異なり、クレディ・スイスの資本はすでに棄損している。富裕層ビジネスの失敗で巨額の損失を出したり、犯罪組織の資金洗浄容疑で有罪判決になったり、問題の根は深い。
3月16日にはスイスの中央銀行から日本円でおよそ7兆1000億円を調達する用意があると発表されたが、不安を払拭できなかった。執筆時点の20日では、救済に向けて同じスイスの金融大手UBSによる買収が決まっている。
欧州中央銀行(ECB)は、クレディ・スイス経営危機の混乱のなかでも0.5%の利上げを決めた。その一方で、「必要に応じ融資を行う」とも表明した。