食を通じた地方創生が、いま始まる
2020年にはデンマークの世界的なレストラン「noma」でドメーヌ タカヒコのワインがオンリスト。これは日本ワインで初の快挙となった。そして、2022年にはオーストリアのワイングラスメーカー「リーデル」と余市町が協定を締結。余市のワインは世界のフーディー、ワイン好きに訴求する力を持っている。ワインと美食の出会いの場となった『LOOP』だけではない。ぶどう畑に隣接して店を構える『余市SAGRA』など、食・ワイン・宿泊をセットで楽しめるオーベルジュスタイルのホテルに加え、地元食材を使用したレストランも、余市に続々と誕生。ぶどう農家、ワイナリーが基盤を形成した雌伏の時代を経て、ワインツーリズムの基盤が集積しつつある。
席上には、ワイン×美食の愛好者を「層」として誘引するトライブマーケティングを標榜し、余市町を牽引する齊藤啓輔町長の姿もあった。町長は本イベントを「食を通じた地方創生の集大成」と位置づけ、今後のワインツーリズムへの大きな期待を語る。
「前田シェフ、仁木シェフが料理を学んだスペインのバスク地方は、かつて造船業が盛んでした。その後の重工業の衰退に当たって、グルメに全力で方向転換し、まちも地域も再生しています。この道のりは、ここ余市にも通底するでしょう。かつてはニシン漁に恵まれ、鰊番屋が栄華を極めた。北海道には炭鉱で繁栄した町もありましたね。しかし、今はどうでしょう。産業の転換ができず、“オワコン”となっているのが現実ではないでしょうか。
自分の地域の強みを生かして産業を転換し、成長産業のフェーズに乗せていく。それこそ、私たちが目指すべき進路です。腕をふるっていただいた両シェフと倉富マネージャー、吉田CEOの知見と技量、そして情熱が融合し、この夜が実現しました。この場にいるみなさんは、食による地方創生、その幕開けの目撃者になるでしょう」(齊藤啓輔町長)
イベントを通して浮かび上がったのは、ワインツーリズム、すなわち食を通じた地方創生の可能性だ。自治体や首長のみが先導し続けるのではなく、ホテルやワイナリー、生産者が自律自走しながら、一つの運動体として同じゴールを見据えて進み続ける。無数の志の連帯と共創から、余市でしか満喫できない「ワイン×美食」の一瞬が輝く。