ケアマネージャーは、介護サービスの利用者とその家族から詳しく話を聞き取り、介護計画を作成します。その後、その計画がその人に合っているか、問題が生じていないかを定期的に面談(介護モニタリング)を行って確認します。各家庭を訪問して話を聞き、本人の健康状態や生活状況などを確かめて詳細に記録するのですが、これにかかる時間は、ケアマネージャーの業務の4分の1を占めると言われています。
そこで、KDDI、情報通信研究機構、NECソリューションイノベーターは、高齢者向けのマルチモーダル音声対話システム「MICSUS」(ミクサス)を開発しました。介護の専門家の知見に基づき、対話から相手の健康状態や生活状況を正確に聞き出せる、今話題のチャットAI「ChatGPT」と同様の言語モデルを使った対話AIシステムです。300万件の言語資源データを学習しているため、遠回しな言い方も理解できます。ウェブ上にある大量の文書やニュースなどの情報を学習しているので、いろいろなテーマの雑談にも応じることができます。声の調子や、表情やうなづきといった視覚情報も加味して、相手の感情を0.1秒以内に推定する能力もあります。
実験は179人の高齢者を対象に、高齢者の適切なケアマネージメントの研究を行っている日本総合研究所の協力で行われました。MICSUSを内蔵したぬいぐるみ型端末とスマートフォンを使い、日本総研の「適切なケアマネジメント手法」に準拠した質問による介護モニタリングを合計927回実施。ケアマネージャーがその情報をスマートフォンで確認しました。
その結果、MICSUSが把握した高齢者の健康状態と生活状況に関する情報の精度は、およそ93パーセントと非常に高く、高齢者からの問いかけに対しても約93パーセントの精度で対応できていました。これにより、高齢者1人あたりの面談と記録に要するケアマネージャーの業務時間は、平均7分から2.2分に短縮されることがわかりました。
介護モニタリングの質問と雑談とは、実際にケアマネージャーと会話しているときのように自然に切り替えることができます。問いかけへの応答に新しい情報を盛り込むことで関心を引きつけ、飽きずに続けられようにも工夫されています。こうした雑談では、高齢者の半数以上に笑顔が見られたり積極的な興味を示すなど、高齢者のコミュニケーション不足の解消にも役立つ可能性が示されました。
KDDIでは、MICSUSを介護モニタリングだけでなく、高齢者の見守りなど、もっと幅広い用途にも応用できると話しています。一刻も早い実用化が望まれますね。
プレスリリース