地球の1Gを越える重力環境をつくることも可能ですね。なので、重力による階層を分けて人々が生活することで、低重力で暮らしたい人・地球と同じ重力で暮らしたい人・負荷をかけてトレーニングしたい人が自由に行き来できる施設となります。
──最初のお話だけ聞いていたら正直、「宇宙いきたくないな…」と思ってしまいましたが、こんな施設がもし実現したら、宇宙で立って歩いてみたいですね。
これから多くの人々が宇宙で生活するようになったら、旅行者だけではなくそこで働く人々も必要になってきます。当然、施設をメンテナンスする人も必要ですし料理人や医者、ホテルマンなど、宇宙産業と直接関連のない職業の人々にも、ストレスなく宇宙にきてもらう必要が出てくる。
──コロナ禍におけるエッセンシャルワーカーの不足が問題視されましたが、宇宙空間における暮らしや身体維持においても、それを仕事として支えてくれる人々がいないと成立しないと。
宇宙で働くことがリスクではない住環境を整えていかないと、労働のためだけに宇宙に連れて行かれる人が出てくるかもしれない。「自分が行ってもいいな」と思えるような環境をつくりたいですよね。
この人工重力施設を中核にしつつ、京都大学の山敷庸亮教授を中心に、宇宙に地球の縮小生態系を移転するためのコンセプト「コアバイオーム」、惑星間の移動を可能にする人工重力交通システム「ヘキサトラック」など、宇宙社会の基盤をつくるためのプロジェクトが進んでいます。
妄想を引き寄せるための地球上でのプロトタイプ
──研究自体の面白さもさることながら、大野さんが自身の妄想をビジュアライズしたりコンセプトムービーに落とし込んだりして発信している点が、直感的で素晴らしいなと感じました。元々は趣味ではじめた研究ですし、ビジュアライズも友人のCGクリエイターにお願いしたものです。この構想をどこかで発表したいと思い、2017年に宇宙建築賞というコンペティションに応募したら入賞して、それがきっかけとなり宇宙産業の方々と繋がるようになりました。
そんな中で山敷教授にお声がけをいただき、鹿島建設内でも模型を作って幹部の一人ひとりに説明して周り、会社として動くお墨付きをいただいたんです。
人工重力の発想自体は類似するものが他にもありますが、人の居住を想定し「建築」として完成された提案は他にないという評価を宇宙産業の方々からいただくことが多くて。そういう点で鹿島建設というバックグラウンドは一つの強みになっていると思います。