宇宙

2023.03.10

宇宙に「重力」をつくる 鹿島建設 x 京大が挑む未来の宇宙建築とは

月の人工重力施設「ルナグラス」

──もし数年間宇宙で暮らしてしまったら、もう地球に戻るのは不可能な体になるということですね。

宇宙空間では体液シフトといって血液が頭の方に集まりやすくなり、さらに運動不足により足が痩せ細っていくため、「バードレッグ(鳥足)」と表現されるような体型の変化も発生します。

もっと未来では「宇宙空間で生まれ育った子どもは地球で暮らせなくなる」という問題も出てきます。無重力空間における生殖については2000年代から様々な研究がなされていますが、魚類や両生類と違い、哺乳類の繁殖には重力が必要不可欠なことがわかってきています。

──大野さん自身はなぜ「重力」に着目されたのですか?

小学校5年くらいの頃からSFや本を通して宇宙の暮らしについて想像を膨らましていて。先にお話したような、宇宙の暮らしで体が変容していき地球に戻れない体になる、ということも中学生の頃に知りました。

そこで思ったのが、それぞれの星で暮らすことが実現した未来では、地球でしか生きられない人・月でしか生きられない人・火星でしか生きられない人、というような、ある種の「分断」が起こるのではないかということです。

さらにいうと、宇宙で生まれた人間は果たして宇宙人なのか?地球人なのか?国籍はどうなるのか?といった、新しい概念の差別や争いも起きかねないのでは…と子どもながら心配になりました。

 
──そこまでくると本当にスター・ウォーズの世界ですね。でも、テクノロジーが発達して裾野が広がっていった未来では、あり得る話かもしれない・・・。

民間企業も宇宙に行くことができるようになりましたが、宇宙における法の整備や統一は非常に難しいです。宇宙基本法というものがありまして、宇宙は万人のものであり一国が支配してはいけないという決まりがあります。

しかし、2017年にルクセンブルクが「民間企業であれば月や惑星で掘って得た資源は、そのまま持ち帰って所有していいですよ」というような宇宙資源法を施行しました。これにより、他国の企業でもルクセンブルクを拠点とすれば宇宙資源を獲得することが可能になった。

それに追従する形でアメリカや日本も法整備を進めており、そもそも宇宙の資源はいったい誰のものなのか、という議論は置いてきぼりのまま各国で競争が始まっている状況です。
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文=松岡真吾

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