宇宙

2023.03.10

宇宙に「重力」をつくる 鹿島建設 x 京大が挑む未来の宇宙建築とは

月の人工重力施設「ルナグラス」


──そもそも分断した状態でスタートしてしまっている状況が危うさを感じますね。

人類がもっと成熟した状態にならないと、宇宙開発が進めば進むほど混乱を招くことは間違いありません。地球人が一体となって、平和に宇宙進出するための構想やシステムが求められています。このような分断を避けたり和らげたりすることが、私が宇宙建築の観点で研究を進めている目的のひとつです。

宇宙で暮らしたい、働きたいと思えるか?

──鹿島建設は京都大学と共創して、人工重力施設「ルナグラス・マーズグラス」という建築物の構想を発表しました。見た目から美しくワクワクするデザインですが、まずはこの施設の概要について教えてください。

月での建築を想定した「ルナグラス」、火星を想定した「マーズグラス」は、地球と同じ生活が可能になる重力環境をそれぞれの星に再現する多層階建築物です。巨大なグラス型の施設となっており、杯の部分を回転させることで遠心力による擬似的な重力を発生させ、人々はその内側で生活します。
月の人工重力施設「ルナグラス」

月の人工重力施設「ルナグラス」


火星の人工重力施設「マースグラス」

火星の人工重力施設「マースグラス」


──「回転させることで重力を生む」という発想は、昔からあるものなのでしょうか?

宇宙飛行の父と言われる科学者・ツィオルコフスキーが150年前に言及しています。そして、1970年代に科学者のジェラルド・オニールが筒状のスペースコロニーのアイデアを提唱しています。

これらはSFアニメや映画の元ネタにもなっています。映画でいうと「2001年宇宙の旅」や「インターステラー」にも似たような施設が登場しますね。

──SFの世界では馴染みのある形状なんですね。大野さんの構想の新規性はどのあたりになるのでしょう?

天体における「低重力」と「遠心力」を合成させて建築へ応用している点です。大学生の頃に見たF1レースからヒントを得ています。F1では、車体を傾けながらカーブを曲がる時に、元の重力に加えて遠心力が発生しますよね。それを見て、重力はカーブの角度に応じて任意に足し算することが可能なのでは、と考えました。
──このカーブの角度によって、かかる重力が変わってくると言うことでしょうか?

地球と比べて月の重力は1/6、火星は1/3。なので、カーブの曲線や外観も変わっていきます。どちらも半径の大きい上の部分にいくとGは強くなり、逆に半径が小さい下に行くとGも弱くなる。一番底の部分は本来の月や火星の重力しか発生していない状態ですね。
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文=松岡真吾

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