学びに性差はない。社会人も学び直しで、世界が広がる
柏村:社会にはアンコンシャス・バイアスが蔓延しています。誰も自覚的に差別や区別をしているわけではないけれど、無自覚的に行われているからこそ根深いといえます。
東大工学部の女性比率が低いのも、そもそも工学部を選択肢に入れていない女性が多いことが要因だと思います。「女性だから文系が得意だよね」「理系に進む女性は珍しいよね」と言われたり、そう思われていると思い込んだりして選択肢を狭めてしまう。日々、身近な社会からアンコンシャス・バイアスを受けた結果、そうなっているのだと思います。
染谷:学術の分野に性差はありません。女性だから物理や数学が苦手だということはない。小学生のころには理科や数学に興味があったのに、特に女性がその興味をだんだん失っていくのは、社会環境から受ける影響が少なからずあるのではないかと思います。性別関係なく、将来の選択肢を自由に選べる環境を整えることは、大人の責任だと考えます。
柏村:日本社会には「女性が担うべき役割」という感覚が非常に強く根付いていると感じます。誰もが持っている、もちろん私自身の中にもある、アンコンシャス・バイアスを、ひとりひとりが自覚して排除することが必要です。
自分自身の好奇心、興味・関心を素直に受け止めて、育てていける世の中をつくっていくことが大事だと思います。これから未来を切り拓いていく中高生はもちろん、社会人経験があって学び直したいという人たちも含めて、自由に学び、自分の世界を広げる機会を持つことが、とても大切だと考えます。
瀧口:私は昨年から東大の大学院に通っていますが、受験の時に社会人枠があったことで「私も受け入れてもらえている」と肯定感を得られて踏み切れました。とても学びの多い日々ですが、一方で社会人が仕事をしながら通えるようにカリキュラムがそもそも設計されておらず、なかなか思うように講義を受講できないという点は否めません。メタバース工学部のように、好きな時間や場所で講義を受けられる仕組みもあるとありがたいなと思います。日本でも学びの場に限らず、多様性を受け入れ、ひとりひとりが価値を生み出せる環境を早急に作っていきたいですね。
柏村:どんな産業もテクノロジーなくして進化はありません。そのための人材も必要です。今から工学を学んでいく人が増えることが、良き社会、良き未来をつくるために必要なこと。複雑な社会課題が立ちはだかる未来に向かって、いろいろなチャレンジをしていくために、ダイバーシティを実現することこそが重要だと考えています。
染谷隆夫◎東京大学大学院工学系研究科長・工学部長、教授。1997年東京大学博士課程修了、博士(工学)。専門は、半導体工学。ヒトの皮膚のようなシート状センサである電子皮膚を実現し、伸縮性エレクトロニクスと呼ばれる新領域の礎を築く。
柏村美生◎リクルート執行役員(人事、広報・サステナビリティ、渉外)。海外事業の立上げやホットペッパービューティ事業長等を経て、2015年リクルートホールディングス執行役員。事業会社社長を歴任。2021年4月より現職。
瀧口友里奈◎経済キャスター。SBI新生銀行社外取締役/グローブエイト代表取締役。 テレビ東京、日経CNBCなど経済番組キャスターを務めイノベーション・スタートアップ・テクノロジー領域を中心に多くの経営者を取材。