これはもう、一つの技術や、一人の天才で解決できる問題ではない。多様な専門性を持つ人たちが集まって、力を合わせて問題解決する必要があります。我々工学部は工学で未来を切り拓こうと努力していますが、工学知だけでは物事は解決できない。多くの人と力を合わせることで初めて、工学は社会問題解決に貢献できるのです。
となると、普段接点のない人との接点をいかに作るかということが課題になります。例えば産業界の方や中高生、あるいは東京から遠い地域や海外に住んでいる方、われわれとは異なる考えを持っている方々。みなさんとの共同作業によって様々な知恵や知見を生み出せると考えています。
人気な「AI講座」 これからの社会の必須科目
瀧口:リスキリング工学教育プログラムは700人のうち、80人は個人の申し込みだそうですね。その中でもAI講座が人気だとお聞きしました。
染谷:はい、AIの基礎と実践を学べる講座です。我々はこれまで基本的に東大の学生にのみ工学の面白さを伝えてきたのですが、これに留まらずひとりでも多くの方に工学に興味を持っていただきたい。というのも、データや先端技術を活用すると、いろいろな未来が可能になるからです。
これからの時代どのような道を歩むにしても、ITや先端技術と無縁ではいられない。例えば会社を経営するにしてもAIの活用は必須です。だから我々は「先端技術には興味がありません」と言っている方にも、工学に関心を持ってもらえるよう呼びかけたい。
日本の教育の場では早い段階で文系か理系かの選択が行われ、受験科目以外の興味が下がってしまうという現象が起きている。自分の好きなことを探してもらいたいとは思うのですが、どの分野に行ってもデータ活用や先端技術を学ぶことによって将来の可能性に広がりが出てくる。中高生にぜひそういったことを伝えて工学への興味を喚起していきたいので、リクルートさんにもご協力いただきながら発信力を強化しているところです。
柏村:工学部で学ぶことがどんなキャリアとつながっていくのかということを、中高生や先生、また保護者も知らない方が多いと思うのです 。リクルートはキャリア支援や学習・進路支援を事業として展開しているので、学びや進路選択について、高校生の実態や支援の仕方について一定の知見があります。そうした知見や情報発信ノウハウを生かして、工学部の学びやキャリアの幅をイメージできる情報を多くの方に届けることで、中高生の学びの選択や将来を考える参考にしていただけたらと考えています。
工学部の女子学生比率に変革を
瀧口:今回は国際女性デーを迎えるにあたってSTEM分野の女性の活躍について考える企画です。東大工学部は多角的にD&Iを推進していますが、ジェンダーについてはどのように考えていらっしゃいますか。染谷:東大工学部の女子学生比率は11%程度。東京大学の学部全体では20%程度ですが、それよりさらに低い。社会課題を解決するために先端技術を活用するのが工学のミッションだとすると社会課題は男性の課題だけではないですから、人口比率に見合ったジェンダー比であることが望ましいと考えています。
瀧口:メタバース工学部は国際女性デーに合わせて、3月1日に「DE&I社会の実現に向けた産学連携による人材育成の行動宣言」を発表しました。なぜこのタイミングで宣言を出すことにしたのですか。