正しい「自己との対話」がより良い交渉を可能にする

Getty Images

ユリ・クルーマンは、著者であり基調講演者、エグゼクティブコーチ、そして数々の賞に輝いてきた最高人事責任者(CHRO)だ。

そのクルーマンが今回、ポッドキャスト「Negotiate Anything」に登場。言葉の持つ力やバイアス、自分自身や他者への期待のコントロールが、職場などで難しい交渉をする際にどのように役立つかについて語ってくれた。

自己認識にも大きな影響力を持つ言葉の力

クルーマンが真っ先に強調したのは、言葉が持つ力だ。言葉は他者だけでなく、自己認識にも大きな影響力を持つ。出自であるユダヤ文化の伝統をひもときながら、クルーマンはこうした主張の根拠として、ヘブライ語で「言葉」と「もの」という意味を示すのが同じ単語である旧約聖書に言及した。これはある重要な事実を象徴している。それは、自身が発する言葉が、私たちが認識する現実を作り出すということだ。

「私たちの言葉は、私たちの現実を作り上げているのです」とクルーマンは説明する。

クルーマンはこの主張の根拠として、宗教だけでなく神経科学の知見も挙げた。それによると、見覚えのある人や場所、さらには単語に接した時、脳内の特定のニューロンが発火するという。簡単に言えば、人は、あるものがなじみ深ければ深いほど、その対象に対して共鳴するということだ。特定の思考と私たちのアイデンティティや信条が密接に結びつく際には、しばしばこのメカニズムが働いている。

人は、自分と対話する際には、その内容に気をつけるべきだ、とクルーマンは主張する。マイナス思考のクセがついてしまうと、ネガティブな考えが時とともに内面化され、ひいてはこうした考えを外部に投影するようになる。また、周りの人から否定的な、あるいは有害な言葉をひっきりなしに聞くようなケースでも、同じことが当てはまる。

「我々は基本的に、他人から得たフィードバックを内面化して、自分に投影するのです」と、クルーマンは述べる。「私たちの頭の中にあるもの(外部から取り入れたもの)と、投影するものの間には、常に密接な影響があります」

自分自身に対するバイアスは見過ごされがち

こうした考え方は、バイアスという言葉とも非常によく符合する。昨今の会話ではよく使われる言葉だが、しばしば見過ごされがちなのが、自分自身に対するバイアスだ。また、非常に困難な会話の際に自己バイアスが及ぼす影響も、あまり顧みられることがない。

「私たちが他の人に対して持つバイアスは、自分自身に対するバイアスの反映であることが多いのです」と、クルーマンは説明する。

バイアスとは、思考のショートカットだ。人間の脳に常に飛び込んでくる、周囲の環境や手がかりが基となってこうしたバイアスを形成するのは自然なことだが、クルーマンは、脳が「より高度な認識状態」に入るように仕向けなければいけない、と言う。さもないとイライラするような状況に陥ったり、さらに言えば、重要な交渉で最大限の力を発揮することもできなくなるかもしれない。
次ページ > より高い認識レベルで交渉を行う方法とは?

翻訳=長谷睦/ガリレオ

ForbesBrandVoice

人気記事