海外

2023.03.01

絶滅危惧種のニホンウナギを救う シンガポール発「培養魚肉」スタートアップ

Getty Images

培養魚肉は、主に食糧危機への対策として注目されているが、乱獲の抑止力や種の保存の側面でも意義がある。また、漁に出る必要がなくなるので、消費地域の企業とのパートナーシップにより現地生産することができるようになれば、輸送時の燃料費削減や、二酸化炭素排出の抑制も実現できる。

「国や地域によって、どのメリットが重視されるかは異なります。エリアごとの訴求ポイントを探りながらメリットを伝え、培養魚肉の優位性を知ってもらいたい。日本は特に魚との関わりにおいて歴史が長く、伝統を重んじる国です。培養魚肉がそうしたものを破壊するのではなく、むしろ伝統を守るために意義のある存在であることを伝えていきたい」

培養魚肉の商品化への課題は?

培養魚肉の課題は味の再現と大量生産、そしてコストだ。味については、独自技術である動物性タンパク質と植物性タンパク質のハイブリッド型の製造法で追求している。

Pershad氏によると、魚のうま味や栄養素は動物性タンパク質によって構成される。一方、テクスチャー(食感)は植物性プロテインによって構成されている。同社は、動物性・植物性という異なるタンパク質素材を組み合わせて製造する技術を開発し、味の再現に挑んでいる。目指す味や食感については、一流レストランの料理などからサンプルを採集し、それらのデータを参考に決めている。

量産については、外部企業とのコラボレーションに解決の糸口を見つけた。2022年、イスラエルの代替肉製造スタートアップSteakholder Foodsと、3Dバイオプリンターを使った培養魚肉製造の共同開発を行うパートナーシップを締結した。

3Dバイオプリントは、細胞をインクがわりにして培養魚肉を出力するものだ。通常は一台のプリンターから一つの出力物を数時間かけて成形するが、MeaTechの3Dバイオプリンターは複数台のプリンターを使って、ベルトコンベアー上に出力する形になっており、大幅な時間短縮が見込めるという。

さらに、1月末には、培養肉製造の起点となる成長因子の合成技術を持つ日本のスタートアップ「NUProtein」とも業務提携。これにより、実際の製造工程においても大幅なスピードアップとコスト削減が実現する。
NUProteinとの業務提携の様子

培養魚肉の販売時期については、2024年中を目指す。まずはシンガポール政府の認可を得た上で、同国での販売を開始する予定だ。

「インテルがパソコンにCPUを供給し、サムスン電子がタッチスクリーンパネルによってスマホの製造を支えているように、UMAMI Meatsの技術が世界の食糧供給を支えるような世の中にしたいと考えています」

現在、日本の飲食店や小売店では「天然」や「養殖」モノの鰻が並んでいる。そこに「培養」の鰻が仲間入りする未来は、案外近いところにまで来ている。

文=尾田健太郎 取材・編集=田中友梨

ForbesBrandVoice

人気記事