耳慣れないこの肩書きの仕事が実は、アマゾンやグーグルなどのIT企業や欧米企業の一部に存在する。一体どんな仕事で、どんな役割を担っているのか。どんな属性や経歴の人が向いているのかなどについて、筆者の経験をもとに説明したい。
インストラクショナルデザイン(instructunal design)を文字どおりに日本語に訳すと、「教育設計」となる。米国では大学や大学院などの専攻の一分野として存在しており、大学や企業などにインストラクショナルデザイナーというポジションが存在する。
具体的な業務としては、大学の場合は「教育のカリキュラムを考える人」、企業においては「業務上で必要となる研修やトレーニングを企画する人」、が当てはまる。
日本の企業や大学ではインストラクショナルデザイナーという肩書きの人はまだあまり聞かないが、定義上では、学校や文部科学省などのカリキュラム担当者はインストラクショナルデザインの仕事をしている、と言える。
企業の場合は人事部で新入社員研修の企画をする人や、各チームの中で研修やトレーニングの企画を専任として担当している人が、定義上はインストラクショナルデザインに従事していることになる。
筆者がアマゾンで「シニアインストラクショナルデザイナー」だった頃──
筆者はアマゾンに在籍していた際に、Senior Instructional Designer(シニアインストラクショナルデザイナー)として働いていたことがあるのだが、幸運なことに、複数の職種を経験した中でも楽しさとやりがいを強く感じられる仕事であった。
アマゾンで筆者が経験したケースを例にとると、数百人から数千人規模のオペレーションの組織には、人事部とは別に、その組織専門の研修を行うチームが併設されており、そのチームは研修を実際に行うトレーナーとインストラクショナルデザイナー(ID)が配置されていることが多い。
全社共通のオリエンテーションなどを除き、該当部門で新しく社員が入社した際に必要となる研修のカリキュラムをIDが企画し内容を詰めて、それに基づいてトレーナーが教室で対面の研修を行う形が多くみられた。
他の事業会社でも、人事部の研修担当者が研修内容の定義や企画をし、研修の実施は本人が行うケースのほか、外注の講師が行うケースもあると思うが、その事業ごと版といったところだろうか。
米国の大学などに置かれているIDポジションは、カリキュラム企画作成のみが職務範囲で、実施は異なる講師が行う、後者のパターンであることも少なくないようだ。
一方、アマゾンなどの米国企業で採用されるIDは、カリキュラム、トレーニング内容の作成に加えて、コロナ下で注目度が上がったイーラーニングの制作・公開まで行うことが多い。筆者は、対面で行われる研修の企画・資料作成に携わると同時に、新しい研修の立案・企画・イーラーニングの制作・イーラーニングビデオなどの複数言語へのローカリゼーションなども担当していた。